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2013-07-23 06:51
集団的自衛権は維新と民主がカギとなる
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三の公約の1丁目1番地である集団的自衛権容認が動き始めた。安倍は秋にも容認へ政府の憲法解釈を180度転換し、通常国会に国家安全保障基本法を提出して成立を図る方針だ。これに対して「断固反対」を旗印に両手を広げて立ちふさがっているのが、公明党代表・山口那津男だ。取り扱いによっては連立の危機となりかねないが、実際にはそうはならないと思う。公明党の方向転換は日常茶飯事であるうえに、自民党内ではある戦略がささやかれている。それは民主の一部と、維新の抱き込み先行だ。賛成派を糾合して、法案成立への下地を作ってしまおうという戦略である。公明党包囲網だ。おやっと思った発言がある。山口が7月22日午後安倍と党首会談をした後、集団的自衛権の行使を認めることを柱とした国家安全保障基本法案については、「安保の基本法であれば、閣法という考えだ」と述べたことだ。「閣法」という全く聞き慣れない官僚の専門用語を使ったのだ。普通なら「政府提出法案」と語るべきところを、なぜわざわざ専門用語を使ったかだが、これは安倍が党首会談で述べたからに違いない。安部もやはり記者会見で「私は閣法であるべきだという考えだ。党とよく話したい」と述べたのだ。集団的安保に関しては党首会談の内容が全く出ていないが、「閣法」で分かった。これは偶然ではない。法案の通常国会提出問題にまで踏み込んで、話が出た証拠だ。何か二人の間で暗黙の合意がありそうな気がするが、当分外には出さないでおこうというところだろう。
山口は、選挙後は「断固反対」からトーンを落とし、「憲法上、どうするのかという慎重な議論がまず必要だ」と述べるにとどまっているが、基本姿勢はまだ固いと見るべきだろう。根底には創価学会の絶対平和主義がある。「安保は天から降ってくる」という婦人部などの主張に、完全に引きずられているのだ。山口は「海外での集団的自衛権の行使」に一貫して反対している。しかしこの立場は根本から矛盾している。公明は1981年の党大会では、それまでの「安保即時解消」から一転して、「日米安保条約」の容認を表明しているからだ。連立の基本条件も安保是認が根底にある。言うまでもなく安保条約は集団的自衛権の双務性を根幹としている。同条約を容認する以上、条約が適用範囲を極東としており、国会答弁で政府がその極東の範囲を「大体においてフィリピン以北、日本及びその周辺地域」と定義していることも認めていることになる。少なくとも極東と範囲を限れば公明も反対する根拠を失うことになる。そもそも山口が反対の根拠としている内閣法制局の見解は、戦後の自民党政権が国会答弁をすり抜けるためのものだった。便宜上内閣法制局長官をして「主権国家の当然の権利として集団的自衛権は有しているが、憲法9条の下で許される必要最小限度の範囲を超えている」という“また裂き”見解を表明させたのだ。
内閣法制局長官は歴代「三百代言」といって、時の政府に都合の良い法解釈を得意としてきた。そうでなければ冷戦下の国会審議は持たなかったからでもある。したがって安倍が第1次政権で政府に有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置して、米国に向かうミサイルの迎撃や国連平和維持活動(PKO)で一緒に活動している部隊が攻撃を受けた場合の武器使用などについて、集団的自衛権の4類型をまとめさせたのも、法制局を意識した対策の側面がある。山口は、極東の環境変化を棚上げにして、平和だけを学会のお経のように唱えていれば、国家の安全を保てると思っているとしたら、見当違いも甚だしい。冒頭述べたように、公明党がダメなら野党があるのだ。まず民主党だ。民主党政権では、国家戦略会議フロンティア分科会が集団的自衛権の行使容認を求める報告書を首相・野田佳彦に提出、野田は前向きな対応を約束している。元代表・前原誠司は、米国で講演し、「集団的自衛権の行使容認をすべきだ」と発言している。
防衛大綱に記載する動きも出たが、隠れ左翼の首相・菅直人に遮られて、実現に至らなかった。最近では幹事長・細野豪志が、憲法解釈の見直しについて「神学論争はやめた方がいい」と述べ、参院選後に本格化する議論に前向きに応じ、自衛隊の役割拡大を容認する考えを示している。自民党がくさびを打ち込めば、確実に投票行動は割れる情勢である。一方で、維新共同代表・橋下徹は「基本的には行使を認めるべきだ」と述べるとともに、「権利はあるが、行使はできないというのは、役人答弁としか言いようがない。論理的にも言語的にも理解できない。何も政治が手立てできなかったのは、政治の恥だ」と言明している。この維新だけでも、参院で9議席ある。自民党の115議席と合わせて124議席で、過半数の122議席を超えるのだ。もちろん衆院は、自民党だけで過半数があり、クリアできる。したがってちょっと自民党が根回しをすれば、公明党抜きでも十分国会の多数派を形成できるのだ。公明党が嫌がるのはまさにこのポイントだ。野党を抱き込まれては、自らの存在価値がなくなるからだ。従って「断固反対」と振り上げた山口の拳は、宙に迷うことになるのは必定なのだ。この山口のメンツを立てるには集団的自衛権の行使を「極東」に絞るなどの政治的な知恵を出せば良いことになる公算が大きい。しょせん公明党は政権にしがみつきたいのであり、口実を作ってやることだ。「どこまでもついて行きます下駄の雪」にならざるを得まい。
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