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2013-08-13 18:06
世界はアベノミクスをどう見るか
伊藤 元重
東京大学教授
アベノミクスが海外で注目されている。海外から多くの投資家やジャーナリストの面談依頼が来るし、海外でセミナーを行うと、通常よりも多くの聴衆が集まる。20年近く経済的な低迷と停滞を続けていた日本が、大きく変わろうとしている。注目されるのは当然かもしれない。しかし、アベノミクスに海外の多くの人が関心を持つのは、自分たちの国の政策にも深く関わる論点が含まれているからだ。
経済が停滞していて、かつ深刻な財政問題を抱えているとき、どのような経済政策をとるべきだろうか。欧州諸国は、とりあえず厳しい財政緊縮政策という道を選択しようとした。厳しい財政危機に陥っている南欧諸国だけでなく、英国などでもそうした政策がとられてきた。財政緊縮政策は、財政再建への早道のように見えるが、現実にはそう簡単でもない。景気が大きく落ち込み、失業率が20%を超えるような状況になっても、それでも歳出カットと増税を進めることができるのだろうか。また、景気が悪くなれば、税収なども落ち込んでしまう。欧州では、最近は財政緊縮政策に疑問を持つ声も出てきた。厳しい財政緊縮でアイルランドと並んで優等生と言われたポルトガルでは、その政策を巡って政変が起きている。フランスでもオランド大統領に代わってから、緊縮一辺倒の政策が見直されようとしている。
世界でもっとも巨額の政府債務を抱える日本が、財政緊縮というよりは、大胆な金融緩和策によってまずデフレからの脱却を優先しようとする姿勢は、当然、世界の注目を集めることになる。構造改革を進め、財政健全化を優先すべきであると主張するドイツなどは、日本に対して厳しい目を向けている。しかし、フランスなどの経済学者と議論すると、アベノミクスを評価する声も聞かれる。米国でも、大胆な金融緩和策をとるFRBの政策を評価する学者は、アベノミクスを支持する。ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン・プリンストン大学教授やスティグリッツ・コロンビア大学教授などは、アベノミクスの支持者だ。一方で、FRBの量的緩和に批判的な共和党系のフェルドシュタイン・ハーバード大学教授やテイラー・スタンフォード大学教授は、アベノミクスにも批判的だ。
財政緊縮か金融緩和、どちらの政策が正しいのか、いま世界的に大きな実験が行われている。アベノミクスもその一つだ。どちらが正しいのか、数年後に、どの国の経済がもっとも元気であるのかということで、その評価が下ることになる。
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