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2013-08-28 06:53
山口那津男は集団的自衛権で二元外交をするな
杉浦 正章
政治評論家
「皆さんは集団的自衛権のことで連立を離脱したくないでしょうねぇ」と公明党代表・山口那津男が党幹部らに話しかけたという。8月初旬のことだ。山口は「だからしっかり話し合わなければ」とも付け加えたが、この発言は永田町に伝わり、山口は連立離脱まで考えているのかという憶測を生んだ。しかし、集団的自衛権容認へ向けて憲法解釈を見直す首相・安倍晋三の意志は固い。法制局長官を更迭したことの意味は、安倍が賽(さい)を投げてルビコンを渡ったことに他ならない。このままではまさに連立の危機だが、山口にその度胸はないとみる。しょせんは条件闘争に移行するだろう。山口の集団的自衛権容認反対の姿勢は一見筋金入りのようである。参院選最中も「断固反対」と発言している。その根拠は「憲法9条をどう読んでも集団的自衛権を認める解釈は出てこない」というところにある。同党が1998年に決定した基本政策大綱は、集団的自衛権について「我が国の自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考える」と明記している。この路線に沿って発言しているわけだ。第1次安倍政権の時は、当時の代表・太田昭宏も安倍に「集団的自衛権の行使は認められない」とねじ込んでいる。太田は現在国土交通相であり、安倍が閣議決定する場合には、このままでは最大の難関となり得る。
公明党の強硬姿勢の背景には創価学会の絶対平和主義がある。参院選挙でも、学会の集会では実働パワーの婦人部から「日本が戦争に巻き込まれる」という無知に根付いた強い反対の声が上がり、山口の「断固反対」発言につながったようである。しかし山口は、憲法の「政教分離」の原則に基づき、公明党が「王仏冥合」の言葉を党綱領から削除していることをよもや忘れてはいまい。1970年に当時の学会会長・池田大作が言論出版妨害批判に耐えきれずに政教分離を明言して、公明党は学会の影響を極力排除した政党に脱皮したはずではなかったか。その立党の基本を党首が無視してはいけない。今の同党の姿勢は国の安全保障より、創価学会大事となってしまっているのだ。また、公明党の集団的自衛権容認反対の方針は、同党の憲法改正案とも全く矛盾する。同党は「加憲」と称する改憲へと動き始めているが、その焦点となるのは9条だ。山口は9条に3項を新設して自衛隊の存在を明記する構想のようだが、これは当然集団的自衛権の容認が前提となる。憲法改正で容認する以上、改正前でも事実上容認すべきと考えていなければ、行えないことではないか。山口は集団的自衛権の行使について「近隣諸国の見方も合わせて考える必要がある」と発言しているが、問題をはき違えている。
中国、北朝鮮など近隣諸国がにわかに好戦的かつ挑戦的に転じて、我が国を取り巻く安全保障の環境ががらりと変ぼうした結果の、自衛権容認であるのだ。韓国も集団的自衛権の容認に筋違いの懸念を示しているが、米韓同盟は同自衛権を認めて、日本は認めないのは大矛盾だ。安倍が法匪の如く旧来の解釈に固執する法制局長官を更迭したのは、極東の現実に全くそぐわない「旧説墨守と思考停止」を改める必要に迫られているからに他ならない。公明党も「思考停止」から離脱しなければなるまい。
ただ連立政権である以上、公明党の立場を考慮して、安倍が8月26日「今まで政府内だけの議論だったが、公明党にも理解をしていただく努力をする必要がある」と述べているのは正しい。公明党の懸念は「地球の裏側まで行って米国を助ける」(山口)というようなところにあるが、集団的自衛権行使に当たっての“歯止め”の明確化が必要だろう。手続きの立法化や自衛隊の派遣を国会の事前承認を前提とする事などは、安保法制懇の第1次報告でも明確化しており、これに地域の限定を付け加えてはどうか。
例えば行使の範囲を安保条約の極東の範囲であるフィリピン以北と明示することなどである。山口は来月8日から13日まで訪米して、米政府要人と会談する方針だが、集団的自衛権の問題を避けては通れまい。現在のまま米国で独自の主張を繰り返せば、まさに安倍政権は二元外交の危機に直面する。すでに安倍は大統領・オバマとの会談で集団的自衛権容認を表明しており、これは対米公約となっている。山口は、米国が本当に集団的自衛権の容認を日本に求めているかどうかを探りたい思惑があるようだが、恥をかくだけだからやめた方がよい。国務省も国防総省もようやく日本が国連憲章も認める安全保障の思想を取り入れ、普通の国になろうとしているという判断であり、安倍の路線をもろ手を挙げて歓迎しているからだ。そこを突っついて、片言隻句を取り出そうとしても、無理だ。もっとも外務省は米側の勉強不足で高官がとんちんかんな発言をしないように、会談予定者にあらかじめ公明党の立場と安部の方針を明確に説明しておく必要がある。これは早急に手を打たねばなるまい。
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