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2013-10-30 07:00
なりふり構わぬ「小泉劇場」の再開
杉浦 正章
政治評論家
「酔えば勤皇、覚めれば佐幕」と勤王の志士から茶化されたのが土佐藩主・山内容堂だ。自己顕示欲の強い殿様で、自己顕示のためなら勤王だろうが、佐幕だろうが、イデオロギーなど眼中にない。これに似て歌謡曲「侍ニッポン」の歌詞のように「昨日勤王、明日は佐幕」と決め込んでいるのが、元首相・小泉純一郎だ。首相時代には原発推進の旗振り役であったにもかかわらず、今度は原発ゼロを主張して「昨日推進、明日はゼロよ」と臆面もない。その小泉が越えてはならない一線を越えた。今や滅亡寸前の極左政党・社民党の党首とまで会談したのだ。昨日の敵は今日の友。なりふり構わぬ自己顕示の「変人」の再登場だ。どうも日本の元首相たちがおかしい。いまや鳩山由紀夫と菅直人も参加して、「3大変人元首相連盟」を形成しつつあるかのようだ。10月29日の会談は、党首就任早々で何か手柄を立てたいと焦った社民党党首・吉田忠智が持ちかけたものだ。小泉はこれに乗った。会談で小泉は「地震大国日本で、使用済み核燃料や高レベル廃棄物の最終処分場を作ることは国民の理解が得られない。原子力発電を続けていくことは無責任であり、不可能だ」「政府に脱原発を決断させるには世論しかない。自分も主張を続けていく」と、ここ数か月の持論を展開した。もっとも、さすがに社民党ペースにはまることを恐れてか、小泉は脱原発に向けた連携を要請されたのに対し「それぞれの立場で各政党が脱原発に向けて努力すべきだ。自分も主張を続けていく。政府に脱原発に向けた政治決断を求めるには、世論に訴えるしかない。新党をつくる気は全くない」と一線を画した。
しかし、いくらひまでも、全く党首の器でない事が露呈しつつあるみんなの党代表・渡辺喜美と4時間会談し、今度はろくろく名前も知られていなかった吉田と会談である。おまけに来月12日には日本記者クラブで記者会見まで予定している。何か魂胆があるとしか思えないが、それは何か。「小泉劇場」の再開である。心理状態を分析するに、まず自己顕示の“血が騒ぐ”のであろう。配下であった安倍晋三が華々しく首相を演じて、わが世の春を謳歌(おうか)している。一方おのれの方は、首相時代あれほどチヤホヤされたにもかかわらず、誰も見向きもしなくなった。どうしたらまた脚光を浴びられるか。それにはあの「初めに言葉ありき」しかないと思いついた。「自民党をぶっ壊す」方式だと思ったのだ。同じキャッチフレーズでまず「原発ゼロ」を唱えることを思いついたのだ。そうすればマスコミが飛び付くと考えたのだ。日本がつぶれるとか、長年自分を支えてくれた自民党に迷惑が及ぶなどとは、毛頭考えが及ばない。老人によくある老化性短絡発言症候群である。しかし、いまさら「昔の名前で出ています」と大年増にすり寄られても、国民は薄気味悪いばかりだ。
加えて、政治への思惑がある。現在71歳。恩師である福田赳夫が首相になったのは72歳である。自分もまだまだやれると思っていることは間違いない。わざわざ「新党はない」と言うことは、逆に「新党への呼びかけ」でもある。つまり社民党やみんなの党レベルでは駄目だが、これに民主党や自民党の一部が加わって「原発ゼロ政党」のお膳立てが出来あがり、「党首になって欲しい」と持ちかけられるのを期待しているに違いない。さらに思惑は、息子進次郞の将来にまで及ぶ。息子が首相候補となる10年先を自分なりに見通して、今からその下地を作っておこうという思惑である。乏しい科学知識の中で再生可能エネルギー万能の時代が到来すると考えたのだ。進次郞はいまは「父は父」としか言わないが、父親の発言直後の10月7日には、父親に理解を示してしまったのだ。「日本ってやっぱり変わるときが来たかなと、誰もが思ったと思う。何か釈然としない気持ちが国民の間で、実は今はまだ景気が回復しそうだから黙っているけども、このままなし崩しにいって本当に良いのか、という声が私は脈々とある気がする」と同調した。だが、この一連の小泉純一郎の判断はことごとく間違っている。なぜなら元首相ともあろう者が主張すべきでない「亡国の論理」であるからだ。まず原発ゼロには朝日新聞を除いて大手全国紙は飛び付かない。読売は社説で「小泉元首相発言、原発ゼロ掲げる見識を疑う」と真っ向からたしなめた。既に原発ゼロの主張は、総選挙と参院選挙で全く有権者に通じることなく、琵琶湖の婆さんが小沢にだまされて作った新党も完膚なきまでにぽしゃっている。原発ゼロ新党など成り立たない事が証明されているのだ。
小泉は元首相に配布される経済指標を読んでいないのか。貿易収支の赤字が15か月連続で、第2次石油危機時の14か月を超え、33年ぶりに最長記録を更新したのはなぜか。全国の原子力発電所がすべて停止し、代替する火力発電所向けの燃料輸入が急増したことによる。原発停止による国富の流出は、2011~13年度の3年間で総額9兆円にのぼる見通しだ。現在は年間3.8兆円の流出となっている。家庭の電気料金は30%上昇し、企業の生産拠点の海外移転が止まらない。電気料金が最も高い国が、安倍の言う「世界で一番企業が活躍しやすい国」になることはない。アベノミクスそのものが原発ゼロでは破たんするのだ。進次郞も愚かな父親に引っ張られて誤判断すべきではない。まだ雑巾がけの段階であり、なるかどうかなどは全く未知数だが、将来首相候補になるころは多くの原発が稼働して、日本のエネルギー・ミックスの中核になっているころだ。原発ゼロどころか、新技術の開発が進み、原発が新設される状況となるだろう。自然エネルギー開発などは百年河清を待つに等しい。それにしても、疝気筋とはよく言った。元首相たるもの筋道を間違えないことを旨とすべきなのに、しゃしゃり出る。アメリカの大統領でしゃしゃり出る者がいただろうか。引退したら吉田茂のように、現役首相の相談に乗るくらいにとどめるのが、首相だった者としての心得と知るべきだ。しょせんキャッチフレーズだけの“三文役者”には無理か。
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