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2014-01-27 13:11
靖国参拝から1か月:参拝の反復継続が重要
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
安倍晋三総理が昨年12月26日に靖国神社を参拝してから、ちょうど1か月になる。この間、予想された通り、様々な反応や議論があった。中韓は激しく反発し、米国は「失望した」と言った。日中の大使が英国の新聞紙上などで舌戦を戦わせる事態にもなった。国内での議論で目を引いたのは、米国との協調が重要であるこの時期に参拝したのは思慮に欠ける、という類の主張である。普段は日米同盟に冷淡である進歩的なマスコミや知識人がそのような論理を持ち出すのは論外としても、現実主義的と思われる論者からの主張については、その当否をしっかりと検討する価値はあろう。確かに、米政府は「失望」を表明したが、日米同盟の根幹を揺るがしたとは到底言えない。実務者レベルでの両国の安全保障協力は、何の遅滞もなく進展しており、例えば、日米は、サイバー攻撃への対処能力を向上させるべく、米軍と自衛隊の専門要員を共同で育成する方針を示すなど、大きな進展を見せている。また、昨年策定された日本の新しい国家安全保障戦略は米国から高い評価を得ており、靖国参拝は、それを損ねてはいない。靖国参拝が対米配慮に欠けるという議論は、いささか的外れであるように思われる。
中国や韓国は反発しているが、言葉で非難するか、首脳会談をしないと言うか、そのようなことしかやりようがなく、大した実害はない。そもそも靖国参拝以前から、日本とは首脳会談を拒否している。米国との関係で重大な問題ではなく、中韓の反発が中身を伴うものでないとすれば、靖国参拝は通常の意味での戦略的問題ではないと言える。それでは、今後、総理の靖国参拝はどのように考えればよいのだろうか。大前提として考えるべきは、次の2点である。第一に、国家のために殉じた人を追悼し顕彰することは、国家の責務であり、それをしなければ国家の大きな精神的支柱を欠くことになる。第二は、靖国参拝はすでに「宣伝戦」の一環となっている、ということである。まず、一点目からであるが、日本が近代国家としての体裁を整えて以降、国家のために殉じた人を追悼し、顕彰する唯一の国家的施設は、現在のところ靖国神社しかない。靖国に祀られているのは、戊辰、日清、日露、第一次大戦、第二次大戦に至る、戦没者の霊である。千鳥ヶ淵戦没者墓苑を挙げる者もあるが、これは、あくまでも第二次大戦中の無名戦士の慰霊施設であり、靖国の代替にはならない。靖国を総理が参拝すべき最大の理由は、ここにある。
次に、「宣伝戦」の観点であるが、一見、総理が靖国を参拝すれば、中韓が反発し、欧米のマスコミに大きく取り上げられ、不利になるようにも思われる。しかし、安倍総理の12月の靖国参拝後浴びせられた厳しい非難にもかかわらず、日米同盟は揺るがされてはいない。一方、米紙の社説や、米国の知識人の論説には、A級戦犯が祀られているので事情が異なるという留保付きではあるが、「靖国はアーリントンと類似した性格を持っている」とするものが出てきている。例えば、米国を代表する知日派若手知識人であるアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリン研究員による12月26日付論説や、12月28日付ワシントン・ポスト紙社説などが挙げられる。したがって、「靖国神社は、戦没者追悼のための施設であり、決して軍国主義を賛美する施設ではない」ということを周知するための広報活動を繰り広げる余地はあるように思われる。実際、安倍総理は、ダボス会議での記者との質疑応答で「国のために殉じた人を追悼するのは、あらゆる国家の指導者が行っていることである」との趣旨の発言をした。そして、日本が平和主義に徹する誓いを改めて表明した。この2点をセットにして繰り返すことが、靖国をめぐる宣伝戦に勝ち抜く正攻法であろう。
さらに、これは、実際の参拝という行動とセットで行われるべきである。語弊を恐れずに言えば、参拝を繰り返されれば、批判する方にも「慣れ」ないし「免疫」のようなものができてくる。春秋の例大祭はもちろんのこと、それ以外にも節目節目に参拝を繰り返す必要がある。靖国神社の性格については、国内にも議論があることは承知している。国家のために殉じた人を追悼し、顕彰する施設が、神社という一宗教法人であってよいのか、検討の余地はあると思う。しかし、現在は、それに代わる施設がないことを、よく認識すべきである。それ以上に、靖国神社が宣伝戦の対象となっている最中に、靖国神社の在り方について議論するのは、全く不適切である。宣伝戦に勝ち、靖国神社を国際問題から解放し、純粋に国内問題として議論が出来るようになるのを待たなければならない。そのような環境を整えるためにも、総理による靖国参拝の反復継続は重要である。(注:本投稿は、筆者である高峰康修の個人的見解であって、日本国際フォーラムの見解を代表するものではない。)
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