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2014-02-18 06:59
日韓仲介に方向転換した米国
杉浦 正章
政治評論家
困難なものの例えとして聖書に「針の穴にラクダを通す」があるが、まさに日韓和解はその表現通りに至難の業である。しかしここは両国が譲歩するしか道はない。米国も国務長官・ケリーの訪韓を機会に「仲介」への動きを活発化させ、近く国務次官補・ラッセルを日韓両国に派遣する。2月18日にはソウルで外務省局長級の会談が始まる。ターゲットはオバマの歴訪に先立つ3月下旬の日韓首脳会談の開催だ。オランダで同月24日から開かれる核安全保障サミットの場での会談実現だ。ここは日韓が努力して発想を大転換し、ラクダが通れる巨大な穴を持つ針を作るしかない。ケリーの訪韓について駐米大使・佐々江賢一郎が「韓国側の努力を強く促したのは非常に適切だった」と絶賛している。確かにケリーの発言の根底には、今そこにある危機に「歴史認識などと言う悠長なことでけんかしているときではない」という極東への危機意識がある。そしてその姿勢は対日説得よりも、韓国側の譲歩を求める方に比重を置いていた事が分かる。ケリーは大統領・朴槿恵に対して「難しく複雑な歴史問題に過度の関心が寄せられている」として自重を促したのだ。
加えて、ケリーは終了後の記者会見で「歴史より現在の人命にかかわる問題に焦点を合わせるべきだ」と強調した。あわてて外相・尹炳世(ユンビョンセ)が日本の方に問題があると発言したが、その焦りは隠せなかった。さすがに米国務省は情勢分析が的確である。朴槿恵の絶え間ない対日批判の“言いつけ外交”は、世界の指導者としても異常の部類に入るのであり、首相・安倍晋三の“発作的”な靖国参拝がなければ、国務省は「韓国がやり過ぎ」の判断に傾いていたのであろう。だから一時的に「失望した」のであったが、ようやく以前に戻ったのである。外交筋によると国務省は慰安婦問題にこだわる朴槿恵の姿勢にいら立ちを募らせていると言われる。米国に慰安婦像などいくつ造ってプロパガンダを展開しても、国務省はさすがに本筋を見逃さないのであろう。ケリー発言から見られる“仲介”の方向は、この凝り固まった韓国の「歴史認識依存体質」を解きほぐすことにあるのだろう。米国は、これまで日韓険悪化の問題について「当事者の問題」として関与を避けてきたが、大統領の両国訪問が設定された以上、拱手傍観できない事態に至ったと判断したのだ。
一定の仲介工作をする方向に転換したと言える。ケリーはこの方針を韓国における記者会見で「ラッセル国務次官補らが今後数週間以内に日韓関係の改善に関与することになる」と言明している。一連のケリー発言から見ると、仲介工作の前提は「安保が大事か、過去が大事か」にある。北の核開発が進展し、何をするか分からない不気味な指導者が虎視眈々(たんたん)と隙を狙っているのである。北にしてみれば、日韓の亀裂は願ってもないチャンスであり、米国は韓国に「なぜここに気が付かないか」と言っているのだ。一方、首相・安倍晋三の歴史認識についても危惧の念を抱いていることは確かだ。なぜなら安倍は、戦争と植民地支配についての反省を述べた村山談話について、昨年4月に「そのまま継承しているわけではない」と発言したり、「侵略の定義は決まっていない」と否定的な意見表明をしており、安倍の“真意”がここにあると見ているからだ。安倍にしてみれば、社会党の首相や、党内で異端の河野洋平の談話などに踊らされてたまるかという心理が働いているのだろう。
まことにもっともであるが、歴代首相も不満はあっても我慢をしてきたのだ。その重みは理解しなければなるまい。発言後に政府は外相・岸田文男が「安倍内閣は歴代内閣の歴史認識歴をしっかり引き継いでおり、河野談話、村山談話など過去の内閣において発せられた談話を否定したことはない」と修正している。ラッセルの仲介はこの辺りをとっかかりにする可能性が高い。日韓首脳会談で安倍に村山、河野談話を確認させる方向での調整である。慰安婦や徴用工への保障問題については、国際法上も日本の立場を支持せざるを得まい。つまり1965年の日韓請求権・経済協力協定で解決された問題であるからだ。とりわけ慰安婦問題に関しては、朝日新聞の意図的誤報によって作り出された側面があり、この問題の泥沼にはまることは得策であるとは考えないだろう。したがって米国の仲介は、安倍に村山・河野談話を再確認させるが、補償問題は解決済みとする「日韓1両損」の大岡裁きしか手はあるまい。要するに、米国は論争の細部に巻き込まれ、泥沼にはまることを極力避け、政治論としての大局的解決を目指すしか手はないのだ。韓国側には、これ以上の反日プロパガンダを自制するよう求めることになろう。また日本ができることは、不況にあえぐ韓国経済の建て直しへの支援であり、この面での協力を求めるだろう。いずれにせよ隣が嫌いな国の筆頭でも、向こうは引っ越してくれない。いいかげんに大人の妥協をすべき時だ。
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