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2014-02-21 06:48
緊張急迫の極東情勢に解釈改憲を急げ
杉浦 正章
政治評論家
2月20日の国会答弁で首相・安倍晋三が集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を閣議決定により行う方針を明言した。有識者会議の結論を待たずに踏み込んだ首相の発言は、事実上の反対派に対する宣戦布告の形となり、国内に日米安保条約改定以来の安保論争を惹起(じゃっき)する流れとなった。民主党左派、共産、社民などは対決姿勢を濃厚にしており、21日付朝日新聞などの紙面展開も反対一色への編集方針を濃厚に打ち出した。安倍は夏までに閣議決定する方針であり、今後自衛隊法の改正が行われる秋の臨時国会に向けて、激しい保革の対立が予想される。安倍が明らかにした方針は、(1)有識者会議の安保法制懇は4月に結論を出す、(2)その後公明党の理解を得る与党内調整を開始する、 (3)並行して法制局を中心に政府が最終判断を調整する、(4)夏までに変更を閣議決定する、(5)秋の臨時国会で自衛隊法など必要な法改正を行う、というものだ。これらの手続きを経て、年末に日米防衛協力の指針(ガイドライン)を17年ぶりに改訂する。安倍は「解釈は内閣が責任もって決めてゆく。閣内においては私が最終的な責任を負っているわけで、法制局や与党とも協議して、その上で閣議決定する」と言明した。安倍の集団的自衛権の行使容認への姿勢は一段と強固なものになっていることが確定的となった。
これに対して質問に立った民主党の岡田克也は、「日本は海外での武力行使をしないという方針の大転換であり、国会の議論なしに政府が決めて本当によいのか。議会人として納得できない」と反対論を展開した。反対派には「解釈による改憲を容認せず、集団的自衛権を容認するなら憲法を改正して行うべきだ」という主張が根強く存在している。その戦略は、改憲を主張することにより事実上容認を不可能な事態に追い込む、というところにある。驚いたことに政府の憲法解釈を担ってきた元内閣法制局長官・阪田雅裕までが、反対野党の集会に出席して、「集団的自衛権を認めるとは、海外で国民が戦争をする可能性を認めることであり、国民全体の覚悟が必要だ。このような重大な問題を、一内閣の解釈変更で成し遂げようというのは、法治国家の否定につながり、憲法改正への立場の違いを超えて反対すべきだ」とまで言い切った。共産党や社民党の主張と全く同じである。しかし、これらの反対論には致命的な欠陥がある。それは、「我が国は独立国として集団的自衛権を保有するが、それを行使することは自衛の限度を超え、憲法上許されない。」という現行解釈が、なぜ閣議決定によって行われてきたかである。野党から質問主意書などが提出される度に、時の政権が、米ソ冷戦下においても諸般の事情から憲法を盾に活用して「許されない」としたのである。「許されない」と言う閣議決定が可能であるならば、安全保障環境の急変を反映して「許される」と言う閣議決定も当然可能になるわけであり、安倍の閣議決定による解釈改憲実現はこの論理に立脚している。
議院内閣制とは、首相が国会議員の中から選ばれ、閣僚も半数は国会議員でなければならないのであり、衆院の信任が不可欠である。その内閣が、国会の多数の意志を反映して、自らの責任において従来の解釈を変更する権利は当然のこととして存在する。坂田の解釈は、法律家としては極力回避すべき政治的な解釈に過ぎない。そもそも内閣が解釈を変更し、国会がそれを裏付ける立法措置を行い、場合によっては司法が違憲審査を行うのは立憲主義の根幹だ。後輩の法制局次長・横畠祐介も、「変更は許されないものではない」と答弁している。かつての法制局長官ともあろう者がそんな基本も知らないのか。安倍が急ぐ背景には、中国、北朝鮮が危険極まりない軍事的な圧迫を強め、極東の安保情勢が急迫する危機に直面していることが挙げられる。おりから米海軍首脳は、中国が尖閣ばかりか沖縄諸島まで奪取する上陸訓練を行っていたことを明らかにした。海軍のファネル大佐は13日に、米カリフォルニア州で開かれた中国に関するシンポジウムで、中国軍が昨年秋に実施した大規模な軍事演習について、「日本の自衛隊と激しい戦闘を繰り広げた末、尖閣諸島や沖縄の一部を奪取することを想定する訓練をした」というのだ。
「上陸作戦などを含む大規模なもので、東シナ海で短期で激しい戦闘により日本の部隊を壊滅させる任務が加わり、尖閣諸島や琉球諸島南部を奪取すると想定しているとしか考えられない」と分析した。まさに中国の脅威は急迫しているのであり、普通の国が保持して、国連憲章の中核となっている集団的自衛権の行使を容認するかしないかなどといった“神学論争”をしていてよいのか、という事態である。そこで推進派、反対派の勢力がどのくらいかと言えば、推進派が圧倒的に多い。総選挙で圧勝した自民党に加えて、みんな、維新両党が賛成に回る流れであり、民主党は党内に推進論を抱えて執行部が反対すれば分裂の可能性もある。焦点の公明党も代表・山口那津男が「今国会中の容認は無理」としているものの、党内には妥協論も出てきており、条件闘争化するものとみられる。自民党は一部に跳ね上がりが出る可能性も否定出来ないが、大勢は長年の論議で決着済みである。したがって反対派の核は民主党の左派、共産党、社民党、生活の党など少数政党に絞られる流れだ。おまけに安倍の戦略は閣議決定を先行させて、法案の提出は秋の臨時国会という段取りだ。左翼政党や朝日が大反対を展開しても、閣議決定は止められないし、法案改正も賛成多数で実現する流れであろう。
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