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2014-04-04 11:39
日本は集団的自衛権をすでに行使している
角田 勝彦
団体役員、元大使
昨年末、私は数回に亘り集団的自衛権に関する解釈改憲に反対する投稿を行った。その後事態がかなり煮詰まってきたので、とくに法律的見地からの私見を披露したい。憲法及び国際法の観点からご批判を仰ぐことができれば幸いである。集団的自衛権について自民党内の議論と自民党と公明党との対話が本格的に始まった。自民党では高村副総裁の集団的自衛権行使を限定的に容認する考えが主流になっている。集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更について政府に提言する安保法制懇の報告書提出は、議論前に結論を方向付けるのはまずいとの判断で、4月から5月に先送りされたが、安倍首相の私的諮問機関だから、政治的結論に平仄を合わせていくのだろうか。
集団的自衛権の行使容認については、政治的軍事的必要性からの容認論が横行しているが、行使が容認されるか否かは法的に判断されねばならない。そこで第一に指摘したいのは、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」とする法制局の定義が、国連憲章など国際法上の定義(同盟締結の権利)と異なることである。国連は、相互防衛同盟がかえって戦争を生む原因になったとの考えから、当初(個別的)自衛権と集団安全保障体制で平和を維持しようとしたが、米州での同盟との関連から、集団的自衛権を認めたものである。
米ソ対立の中1951年のサンフランシスコ平和条約と同時に締結された日米安全保障条約は、この「国連型集団的自衛権」に基づくものである。日本の米軍への基地提供(地位協定含む)と米軍の日本防衛のバーターである。米軍は日本を守るが、自衛隊は米軍を守らなくていいとの条約の片務性は、世界的に珍しくない。米国は、日本を自由主義陣営に止めることが目的で、軍事的に日本に守ってもらうことなど期待していなかった。自衛隊には盾の役割を果たすことは期待していた。1959年3月30日の東京地裁(伊達秋雄裁判長)の判決は、砂川事件で、駐留米軍を憲法違反と断じたが、高裁を飛ばして最高裁に直接上告された結果、同年12月16日全員一致で、安保条約及び駐留米軍は合憲である(駐留米軍は「戦力」に該当しない)として、この判決は覆えされた。すなわち、我が国は国連型集団的自衛権をとっくに行使しているのである。
他方、法制局型集団的自衛権は、日本国憲法第9条が戦争放棄(第1項)及び戦力の不保持と交戦権の否認(第2項)を規定していることからして、限定的にせよ行使を容認できない。自衛隊がこのような行動に出れば1994年7月20日、村山富市首相の自衛隊合憲答弁(「専守防衛に徹し、自衛のための必要最小限度の実力組織である自衛隊は、憲法の認めるものであると認識する」)の前に戻り、自衛隊違憲論が復活するだろう。高村副総裁は、限定的容認論の具体的事例として「日本周辺の有事で活動中の米艦防護」を挙げ、他方「自衛隊が米国に行って米国を守る」といった外国領土での戦争に加わる典型的な(法制局型)集団的自衛権は認められないと説明している。前者は、かかる事態の前には在日米軍基地を含む我が国領域が攻撃対象になっていることが当然予想される場合であり、個別的自衛権で対処できよう。後者は従来解釈を維持することになる。
3月30日の毎日新聞による全国世論調査では「集団的自衛権を行使できるようにした方がいいと思うか」と尋ねたところ、「思わない」が57%だった。憲法を改正せずに憲法解釈の変更で集団的自衛権を行使できるようにする安倍晋三首相の進め方については、「反対」と答えた人が64%に上っている。内閣支持層でも解釈変更で行使を容認する首相の進め方に反対する人が53%だった。消費税引き上げで、アベノミクスの先行き懸念もある。オバマ訪日を控えTPPもある。国連型集団的自衛権容認で満足して、法制局型集団的自衛権は憲法改正を待つのが妥当ではないだろうか。
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