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2014-04-25 07:06
“取り囲まれる”中国の海洋戦略
杉浦 正章
政治評論家
中国国防省報道官の楊宇が4月24日おそらく寝ずに考えてきたコメントを出した。首相・安倍晋三が米大統領・オバマの尖閣への安保適用発言に喜んでいることをとらえて「鶏(ニワトリ)の羽を軍令の印にしている」と形容したのだ。上からの虚飾に満ちた指示を針小棒大に喧(けん)伝することを意味することわざだ。ニワトリの羽はオバマ発言、軍令の印の部分は安倍がそれを水戸黄門の印籠のようにかざしていることを意味する。中国には面白いことわざがあるものだが、日本には「引かれ者の小唄」がある。負けたくせいにつべこべ言う人種を指す。しかし会談自体は台頭する中国の影が大きくさしている実態を反映する結果となったことは否めない。その存在への抑止が最大のテーマとなった形だ。日米首脳会談における安保部門の点数を付ければ80点だろう。嫌がるオバマに尖閣諸島について、対日防衛義務を定めた安全保障条約第5条の「適用対象である」と明言させたのは、このところさえなかった日本外交の勝利である。
オバマは記者会見で「新しいことではない」を繰り返したが、せいぜい米人記者をだますことが出来るだけだ。安保条約第5条の適用を大統領が言及するかどうかが注目される中で、適用を明言したのは全く新しいことなのである。綸言汗の如しであり、まぎれもなく日米同盟は世界最大級のより強固な同盟となって再生したのだ。オバマにしてみればシリア、ウクライナで弱腰を指摘され、自らが掲げるアジアへのリバランス(再均衡)政策までが信用出来ないとなっては、威信も何も地に落ちる。さすがにオバマは、「その代わりと言っては何だが」とは言わないものの、同じ趣旨の発言を繰り返した。まず安倍に対して2度にわたって注文を付けた。「総理に直接こう言った」と切り出し、「尖閣問題に関して対話で中国の信頼を達成できずに事態がエスカレートするなら大きな過ちとなる」と注文を付けた。さらにオバマは「事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらずにどうすれば日中双方が協力していけるかを模索すべきだ」とも強調した。明らかに安倍側近の“極右発言”や、靖国参拝などを控えるようクギを刺した形である。安倍でなくても日本側にしてみれば「中国に直接言って欲しい」と言いたくなる発言でもある。
新華社がこうした発言を逐一伝えたのは我田引水的とも言えるが、中国の関心の深さを物語っている。オバマが記者団から「大統領の発言は中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合にアメリカが武力行使に出ると聞こえるが、その前になぜ中国が越えてはならないレッドライン(一線)を明示しないのか」と質したのに対して、「越えてはならない一線など存在しない」と答えた。新華社はこの発言を金科玉条のように速報している。だからといって習近平が“一線”を越えれば、大誤算となることは間違いない。要するに、昨日の記事で強調したように、オバマの安保適用発言の狙いは、誤算による中国の尖閣侵攻を思いとどまらせ、対話の場に日中を引きだすところにあるのだ。中国に対して「アメリカが軍事行動に出なければならなくなるようなことはしてくれるな」と言うメッセージを送っているのだ。一方で中国の海洋進出戦略に狂いが生じたのは間違いない。尖閣に関しては連日のように公船を接近させ、防空識別圏を設定し、自衛隊機に攻撃レーダーを照射することが何を意味するかと言えば、隙あらば尖閣を占拠しようと狙っていることにほかならない。日米首脳会談はその「隙」を埋める結果となったのだ。
報道官の楊宇が「中国は釣魚島の完全な防衛能力を持っている。他の国の提供する安全保障など必要としない」と、米国に頼る日本蔑視の発言をしているが、国防の専門家のくせに尖閣問題で軍事的選択肢がなくなったことが分かっていない。だいいち島を実効支配できないで「防衛能力とは」おこがましい。オバマが歴訪するフィリピン、マレーシアでも日米合意の線に沿って、南シナ海での対中戦略が語られるのは間違いない。中国の海洋進出は“取り囲まれる”のだ。もはや習近平も自らの地位確立のために対日強硬策を使うという“邪道”から離脱して、対話路線を選択すべき時であることに気付くべきだ。日米首脳会談の結果、尖閣を狙って軍事行動を起こせる事態ではなくなったことを思い知るべきであろう。一方中国と比べれば小さいが、集団的自衛権の行使容認反対の公明党代表・山口那津男も、苦境に陥った。本人は「一方的にやるのは憲法の精神に反する」と、死んでもラッパを離さないように見える。しかし、オバマが、行使容認に向けての安倍の姿勢を「歓迎し、支持する」と表明した以上、日米間の公約となった形だ。そろそろ限定容認を口実に方向転換した方が身のためではないか。
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