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2014-07-04 06:07
習の日米韓への「くさび」は失敗
杉浦 正章
政治評論家
米大統領・オバマのアジア戦略であるリバランス(再均衡)と、これに対抗して習近平が打ち出した「アジア安全保障観」のせめぎ合いが、中韓首脳会談における事実上の焦点であった。習は極東における日米韓の軍事連携にくさびを打ち込むべく、韓国大統領・朴槿恵を説得しようとした。しかしさすがの朴も、米韓軍事同盟を毀損するわけにはいかず、「成熟した同伴者関係を築く」と安保分野での高レベル協議定例化で一致するにとどまった。その代わり一致しやすい反日歴史認識共闘でお茶を濁した、というのが中韓首脳会談の実態だろう。反日で「中韓蜜月」を演出したのだ。消息筋によると、中韓会談を前にした米国の対韓圧力は相当なものであったようだ。オバマのリバランス政策が首相・安倍晋三の集団的自衛権の行使容認で確立しつつある状況下で、朴が習に取り込まれては、元も子もなくなるからだ。事実、習は安全保障分野で韓国を取り込むことに専念した。米国と安倍の積極外交で南シナ海と東シナ海での覇権行為に対する対中包囲網が形成され、中国の孤立化が明白になっている状況を、韓国との関係強化で突破口を開こうとしたのだ。
習の基本構想は5月の上海会議で打ち出したアジア安保観だ。「アジアの問題はアジア人で守る」という同構想は、米国のリバランスを強く意識したものだ。しかしこの構想に同調する国はなく、わずかに朴だけが、中国国営中央テレビのインタビューで「注視している」と言明していた。習はこの「注視」を「支持」に転換させることを狙った。会談に先立って、中央日報など韓国紙への寄稿で本音を露呈している。習は「中韓両国は複雑な安全保障環境の挑戦にも共に対処すべきだ」との認識を示し、政治・安保両面での共闘を呼びかけたのだ。「いったん動乱が起きれば、域内国家のだれもが無事ではいられない」とし、中韓が協力して「この地域の恒久的な平和と安定を実現するため建設的な役割を果たすべきだ」と強調した。明らかに日米韓連携に、韓国を中国寄りに引き込むことによって、亀裂を生じさせる戦略だ。これに対して、朴は反日共闘は歓迎するところであろうが、反米につながる“共闘”にはさすがに躊躇(ちゅうちょ)せざるを得なかったのだ。かくして習のくさびは実現しなかったことになる。
しかし、両首脳が「両国の相互信頼を基盤に共同の関心事を緊密に論議する成熟した同伴者関係を築く」ことで一致したことは、朴が政治・安保にも踏み込んだ対中関係を容認したことにほかならない。抽象的ながら、朴が習の主張に配慮した形跡が濃厚だ。これこそ日米両国が今後「注視」しなければならない問題であろう。一方で歴史認識での反日路線では難なく一致した。両首脳は安倍が行った河野談話の検証に反対する立場を確認し、共同声明付属文書で「双方の研究機関が関係資料の共同研究で協力する」方針を打ち出した。資料を集め、研究することによって、反日プロパガンダを長期にわたって継続する方針を選択したことになる。加えて習は、「来年が世界反ファシスト戦争勝利70周年であり、抗日戦争勝利と朝鮮半島の『光復』の70周年でもある」と指摘。そのうえで「双方は記念活動をすることができる」と述べ、中韓共同式典の開催を呼びかけ、朴もこれに応じた。
既にロシア大統領・プーチンも共催に応じており、これで少なくとも中、露、韓の共催が固まった。しかし、歴史認識問題は一時期より国際世論に訴えなくなった。なぜなら、中国の臆面もない海洋覇権行為の「現実」が「歴史」より優先する状況を生んでいるからだ。さらに会談は直接的言及は避けたものの、日本の集団的自衛権容認への大転換と、拉致問題をめぐっての日朝急接近が少なからぬ影響を及ぼした。習が記者会見で核・ミサイルを協議するための6か国協議の早期開催を呼びかけたことからも明白だ。習としては、北朝鮮への影響力低下への懸念が、日朝接近で現実のものとして生じており、韓国にも頭越しの日朝接近に不快感が根強い。共同声明が強い調子で朝鮮半島での核開発に断固として反対するとの方針を打ち出したのも、両国の焦りが背景にある。
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