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2014-07-14 06:04
日米ガイドラインは「対中抑止」が前面に
杉浦 正章
政治評論家
1978年にソ連侵攻、97年に北の核・ミサイルを意識して策定された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」は、今回は極東情勢の激変を念頭に「対中抑止」を前面に打ち出すことになるだろう。これは好むと好まざるとにかかわらず、日本が米大統領・オバマのリバランス(再均衡)政策の一翼を担うことになり、日米軍事協調路線は一段と深化する。しかし、ガイドラインをめぐっては米軍に、北大西洋条約機構(NATO)に匹敵する防衛協力に拡大できるという過剰ともいえる期待感が台頭してきている。早ければ9月に予定される中間報告をめぐって、政府は出来ることより出来ないことを明確にして交渉に臨む必要がある。ガイドラインは年末までに改定する方針が日米両国で確認されている。防衛相・小野寺五典の訪米は、これを再確認したことになる。会談したヘーゲルがもろ手を挙げて受け入れたことは間違いない。「この大胆かつ画期的な決定により、法整備が行われると、地域および世界に対する貢献が増大する。米政府は強力に支援する」と賛辞を惜しまなかった。米国にしてみれば、「男子3日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」の「男子」を「日本」に置き換えたいくらいの気持ちであろう。まさに変われば変わるものだという感情がよく現れている。米政府は財政難から軍事費を削減しなければならないのにもかかわらず、イラク、パレスチナ、ウクライナではモグラ叩きのように争乱が頻発。これに加えて極東までも緊張の度を増しては、猫の手でも借りたいところであった。
そこに日本の集団的自衛権の行使容認である。ヘーゲルが喜ばないわけはない。そしてヘーゲルは「日本政府の決定によって日米ガイドラインは画期的な形での改訂が可能となる」と踏み込んだ。具体的な改訂内容については言及しなかったが、米国としては、この機をとらえて極東戦略を一挙に有利に展開できると踏んだのだろう。中国に抜かれたとはいえ日本はGDP3位の経済大国である。1位と3位が軍事協力を強めれば、2位の出る幕ではなくなるというのが基本戦略だ。それでは画期的なガイドライン改定とは何か。米海軍制服組トップの作戦部長・グリナートが米国の期待の一端を去る5月に明らかにしている。グリナートはまず「集団的自衛権の行使が認められれば、アメリカ軍は空母部隊やミサイル防衛の任務で自衛隊と共同作戦を行うことができるようになる。日米がさまざまな任務で1つの部隊として共同運用できるようになる」と日米両軍の統合的運用への期待を表明している。加えて「将来的にはNATOの同盟国と同じような共同作戦を展開することも、われわれは考えるべきだ」とも述べている。「統合的運用」は日米共通の敵が極東に現れた場合には、当然作戦も統合的にならざるを得ないし、効率面からもそうすべきことは言うまでもない。
しかし「NATO並み」は今の日本にはいささかきつい。英国などのようにイラク戦争や湾岸戦争に参戦して、多数の戦死者を出したりすれば、時の政権は「サドンデス」となりかねない。「普通の国」になるには日本はまだ20年かかる話であろう。従ってガイドラインは「普通の国への萌芽」が見える程度にしかコミットメント出来ないであろう。首相・安倍晋三は関連法案の処理は通常国会に先送りする方針であるが、年末のガイドラインで限定行使の枠を越えた方針を打ち出せば、離反する野党も出てくるし、公明党も“転向”しかねない。法案の成立も危うくなりかねないのだ。したがって米国は過剰な期待をすれば、全てがぶちこわしになるという特殊な日本の国内政治情勢を知るべきであろう。考えられるガイドライン策定作業の重点項目は、(1)中国への抑止力の確立、(2)完成段階に入った北の核ミサイルへの対応、(3)尖閣グレーゾーンの事態への対応、(4)湾岸戦争やイラク戦争などの事態に日本がいかにかかわるか、などに絞られるものとみられる。
対中抑止力と北の核ミサイルは日米安保条約の最優先課題であり、条約に沿った形で米国はコミットするだろう。調整の焦点は、グレーゾーンへの対応と中東有事などの事態への対応だ。グレーゾーンへの対処については日本側は米軍の関与を期待しているが、漁民などに装った中国軍兵士が“ちょっかい”かけてきたような事態まで米軍に頼るのはいかがなものか。最初からやる気がないと受け取られる。グレーゾーン事態へは自衛隊が警察権に基づく海上警備行動や治安出動でまず対処すべきであろう。米軍の役割としては、次ぎに続くと考えられる中国軍の参戦を空母艦隊で警戒し、けん制することであろう。既にグレーゾーンを想定したと見られる日米合同演習は、今年2月の「アイアンフィスト(鉄拳)」作戦などで行われており、まず自衛隊が対処すればよい。中東有事などへの対応であるが、首相・安倍晋三は日本がイラク戦争や湾岸戦争での戦闘に参加することはないとたびたび発言している。しかし米国としては当然「色をつけてもらわにゃ困る」と言ってくるだろう。その「色」をどうつけるかが、やりとりの焦点となろう。例えば「戦闘には参加しない」が、機雷の除去や後方支援には対応せざるを得ないし、対応すべきであろう。いずれにせよ集団的自衛権の行使容認は、公明党を引き込むために「神学論争」をしていた段階から「実戦論」へと移行する。安倍は褌(ふんどし)を締め直してかかる必要がある。
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