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2014-08-04 06:08
安倍は石破人事で詭道を選ぶな
杉浦 正章
政治評論家
孫子に「兵は詭(き)道なり」があるが、宰相たる者内閣改造で詭道を選んではならない。首相・安倍晋三は王道を行くべきだ。王道とは自民党の将来を見据えた後継者の育成である。石破幹事長を安保担当相に回して勢力を削ぐなどという人事構想は詭道そのものであり、内紛の原因を首相が自ら作ることになる。アベノミクスの総仕上げ、集団的自衛権行使に向けての法改正、そろそろ足音が聞こえだした解散・総選挙など、正念場はこれからである。自民党は、かつての怨念の戦いを再現して、野党とマスコミの餌食になってはなるまい。元首相・森喜朗が「石破だ、安倍だと、けんかしている時じゃない」と発言しているが、全く同感だ。正直に見て安倍は久しぶりに登場した首相らしい首相だ。登場してすぐ民主党政権の不吉なる暗雲を吹き払い、アベノミクスで経済を回復させ、外交安保で自民党本来の路線を取り戻した。極東環境の激変を見据えた集団的自衛権の行使容認も成し遂げようとしている。安倍は将来自民党政権にとって「中興の祖」と位置づけられる可能性がある。建武の中興は2年半で崩壊したが、平成の中興には安倍長期政権が必要だ。そのためには党内基盤の安定が不可欠であり、奸佞(かんねい)じみた側近らによる「石破外し」の進言などに耳を貸してはならない。
歴代首相の白眉は、何と言っても吉田茂と佐藤栄作だろう。この二人の特色は自民党長期政権の礎を人事によって築いたところにある。吉田は「吉田学校」と言われ、その優等生は池田勇人と佐藤栄作であった。池田は病気に倒れたが、その流れは佐藤栄作が引き継いた。佐藤は「人事の佐藤」と言われるように、田中角栄、福田赳夫、中曽根康弘、竹下登、宮沢喜一などを登用して、育成した。佐藤は名秘書官・楠田實に「為政者たるものその地位に就いたときから後継者を育成しなければならない」と使命感に燃える言葉を残している。今回の改造人事も、安倍は後継者育成に主眼を置くべきであろう。幸い党内には内紛の目はない。内紛の種をせっせとまいている首相経験者はいる。原発再稼働反対の細川護熙と小泉純一郎だが、まあ犬の遠吠えの域を出まい。時々近くに来て吠えるのが、古賀誠だが、評論家の域を出ない。野中広務もそろそろ隠居した方がいい。テレビでピントが狂った発言を繰り返している。しかも、いずれもノーバッジばかり。政権は俯瞰図で見れば平穏なのである。
そこで生臭い人事の話に移行するが、ここで安倍が石破を“切る振り”を見せたのはなぜか。会社組織でも、偏狭な社長はナンバー2を切ろうとして必死になるが、安倍はこれを真似ようとしたのだろうか。どうもそうではないようだ。7月24日の会談で安倍は石破に「集団的自衛権の問題も含めて、国民にきちんと知らせるには、あなたが一番良い。だから安全保障担当の大臣になって欲しい」と切り出したと言われている。しかし同時に「今後は来春の統一地方選などがあり、地方を歩けるのは石破さんしかいない」とも述べており、これは幹事長留任を示唆したとも言える。要するに、安倍は瀬踏みをすると共に、党内の反応を探ったのだ。石破のもとには安倍の“安保担当相人事”について政界、財界などから同情論がひっきりなしに伝わっているようであり、石破側近からは「野に下って総裁選の準備を」とけしかける声も出ている。いずれにしても石破も同人事を受ける構えにない。それもそうだろう、国政選挙勝利は安倍の功績もあるが、4割は石破の功績でもある。地方選挙での取りこぼしはあるが、石破の責任だけにするのは酷だ。秘密保護法の成立を実現させ、ぶれはあったが集団的自衛権の行使容認への公明党との調整も実らせている。集団的自衛権の行使に詳しい人材も石破の他に居ないわけではない。石破が推したと言われる元防衛庁長官・中谷元などでも十分にこなせるのだ。
要するに、石破を「外す」ということの利害得失を安倍は考慮する必要がある。外せば、既に前回の総裁選で地方票のトップを獲得した石破である。政権を脅かす存在に確実に“成長”して、来年秋の総裁選挙に出馬することは間違いないのだ。幹事長を留任させるか、主要閣僚に取り込めば、“成長”はするが、政権を脅かすことはまずあるまい。石破にも禅譲期待が生じ得るからだ。従って、安倍は改造を政局にしてはならない。石破の処遇は伴食大臣としてではなく、幹事長留任か、外相または財務相として処遇し、後継者育成の姿勢を示すべき時であろう。安倍も、その側近なる者も、総選挙と参院選挙で圧勝した首相はなかなか降ろせるものではなく、次の国政選挙まではまず政権が継続する可能性は強い事を考え、平地に波乱を起こしてはなるまい。
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