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2014-09-16 06:46
問題を、慰安婦の一般論にすり替えるな
杉浦 正章
政治評論家
朝日新聞出身のコラムニスト早野徹は政治部時代の記者仲間であった。今は桜美林大学の教授で朝日Webに「新ポリティカにっぽん」という政治論を書いている。昔の花形政治記者だ。その早野がBS朝日の「激論!クロスファイア」と「ポリティカ」で朝日の慰安婦強制連行訂正・謝罪に到る内幕を吐露している。端的に言えば、訂正論の政治部中心勢力と反対論の社会部の相克であり、その暗闘が繰り返されて、36年間も訂正が行われなかった構図が目の辺りに現出する。その内容は早野が「多少の確執」と表現したが、他の関係者によるとかなり「強い対立」があったようである。どうもマスコミは、社会部が強い朝日、毎日、NHKに左傾化の傾向が強く、政治部が強い読売、産経は右寄り路線を取る傾向がある。とりわけNHKは、政治部出身の海老沢勝二がやめてから、社会部の天下になった。重要な政治ニュースがあったときでも、くだらない事件や事故を延々と報じている。バランス感覚が広いか狭いかの問題であろう。それはともかくとして、まず早野は「ポリティカ」で「2度訂正の機会があったのに、それを逸した」と明らかにしている。最初は「1992年4月に産経新聞が疑問を提起、私が残念に思うのは、すでにかくも疑問が出ていたのに、なぜその時点で徹底的に調べ直さなかったのかという点である」と指摘した。次ぎに「1997年3月に従軍慰安婦問題の特集記事を掲載したときにも、吉田氏に電話で虚偽かどうか問うた。結局、裏付けがとれないため『真偽は確認できない』と表記した。この2回の真偽を確認する機会に、なぜ真相把握を逸してしまったのか」と慨嘆している。
社内で訂正を公然と主張したのは、政治部長出身で主筆を長年勤めた若宮啓文だったという。BS朝日で早野は「若宮君が訂正すべきと思って提案した。これに対して社会部の慰安婦問題を発掘してきた人たちには、大阪社会部も含まれるが、『ひょっとしたら、どこかでそういう事があったかも知れない』という思いがあった。吉田氏の書いたようなことはないにしても、朝日としては同情を持って扱いたいという気持ちがあって、それが失敗につながった」と内実を語っている。吉田清治の“小説”は虚偽であっても、日本軍のことだから「ひょっとしたらどこかであった」という、立証なしでの訂正拒否を社会部は主張したことになり、驚くべき報道姿勢が維持されたことになる。早野は「訂正すべき」と「ポリティカ」に書くに当たって、社内の空気を聞いてみた。するとこれまた驚くべき反応が返ってきた。「産経や読売に挑戦されているので戦うのだ、と言っていた」というのだ。さすがの早野も「メディアにおけるバトルという観点が強すぎたのではないか。バトルとなると、おわびをすればつけ込まれるという気持ちもある」と述べた。メディア間の戦争に負けるという意識で謝罪を拒否してきたというのだ。確かにそこには読者の存在などは眼中にない。
さらに9月5日の訂正と記事取り消し紙面で編集担当・杉浦信之が一面で「慰安婦問題の本質直視を」と強調していることが、問題のすり替えと批判されていることに対して指摘した。「主張は正しいにしても、まずは訂正しておわびしますという見出しを取り、もう一つ慰安婦問題の直視をという2本見出しで行くべきだった」と述べているが、もっともだ。最初から「本質直視を」という見出しで、しかも一面に書かれても、何が始まったのか読者には分からない。編集担当の能力が問われる問題だ。
次ぎに早野は勤労動員の女子挺身隊と慰安婦の混同をした記者・植村隆が慰安婦が親によって売られたことを訴状に書いていたにもかかわらず、そこに触れずに記事を作成、意図的な捏造であったとも指摘されている問題に言及した。「ボクの下で記事を書いていたこともある。誠に素直な記者で策略をめぐらすなんてことはできない。未熟な取材不足であった。彼の奥さんも向こうの人だから疑問を持たれたこともある」と擁護した。しかし早野も、この後に続けた言葉がいけない。「この問題が出始めたときの混沌の中で書いている。だいたい新聞記事は永遠に途中経過なんですよ。その時点で分かったことを精一杯書くと言うことの積み重ねだから」と結んだのだ。言わんとすることは分からないでもないが、これは「永遠に途中経過」の記事が、繰り返し書き続けられるという、誤報の連鎖を生み続けて世界中で日本という国家だけを「性奴隷国家」としてを貶(おとし)めたことに考えが及ばない発言であることを意味する。
早野も文藝春秋に書いている若宮もそうだが、やはり朝日は慰安婦強制連行問題を、慰安婦一般の是非とすりかえて言い逃れしようとしている姿勢がありありだ。慰安婦一般を論じるなら世界中の大国や朝鮮戦争後の韓国も含めての戦時慰安婦問題を論じなければ不公平だ。慰安婦制度を正当化する気はさらさらないが、調べれば日本軍と大同小異であることが分かるはずだ。現在の慰安婦問題の本質は誰が見ても、朝日の「軍が組織的に人さらいのように強制連行した」という誤報とその取り消しにある。慰安婦の一般論で覆い隠そうとしてはいけない。筆者が精読している普段の政治記事から得た印象では、2大紙の情報量、正確度は朝日が10とすれば、これを追う読売は7くらいの開きがある。この国民にとって貴重な情報源が、“ぐれ”て道を誤り続けてはならない。反省して“真っ当な人間”に早く立ち戻ってほしい。
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