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2014-09-26 06:39
APECでの「極東デタント」へ動き急
杉浦 正章
政治評論家
国連を舞台に首相・安倍晋三と外相・岸田文男による多様な外交が展開されているが、俯瞰すれば全てが「極東雪解け・デタント(緊張緩和)」へとつながっていることが分かる。中国とは「海上連絡メカニズムによる不測の事態回避」、韓国とは「史経分離」、ロシアとはウクライナ問題での緊張の中での対話維持だ。これが11月10日の北京・アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に向けて収れん、定着する流れになりつつある。民主党政権のイデオロギーと無知から来る右往左往外交を修復し、49か国を回った安倍外交が突破口を開きつつあるように見える。端的に言えば、まず中国が安倍外交に折れた。というか折れざるを得なくなった。安倍は座標軸を日米安保体制強化に据えて、中国の力による尖閣諸島の現状変更を認めず、米国はもとより、オーストラリア、インドなど大国との間で安保上の対中認識を共有した。南シナ海に進出する中国に対してフィリピン、ベトナム支持を明確に打ち出し、ASEAN諸国の支持を獲得した。この結果、5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」では、中国を孤立させることに成功したのだ。
他方、習近平は汚職摘発という権力闘争に成功、国内的な主導権を握った。外交上もフリーハンドを握りつつあると見てよい。その習にとって最大の政治ショーは北京でのAPECであり、この成功は不可欠の最優先課題なのである。中国は国際会議など外交の舞台を伝統的な朝貢外交のように演出し勝ちだが、APECも同様であろう。国民にどう見せるかに腐心する。各国首脳が人民大会堂に参集し、習は歴代王朝の皇帝のようにそれを迎え、いかに習が国際的に信頼され、指導力があるかを国内的に宣伝しなければならないのだ。それが安倍主導で再び孤立となっては、政権の基盤が揺るぎかねない。だから折れたのだ。その兆候は7月末の元首相・福田康夫との会談でAPECでの日中首脳会談に前向き姿勢を示したことに始まる。明らかにこれを受けて8月18日には訪中した「日中次世代交流委員会訪中団」に急きょ副主席・李源潮が会談、「小異を捨てて大同につくことが日中双方に求められている」と何度も発言している。そして習は9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に当たって、「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明したのだ。
より具体的な動きも出てきた。まず安全保障面で進展があった。日中両国政府は24日、防衛当局が海上の艦船や航空機による不測の事故を防ぐため、海上連絡メカニズムの運用開始に向けた協議の再開で大筋一致したのだ。筆者がかねてから展望していたとおりにことは進展しつつあるように見える。APECで日中首脳会談が行われた場合には「不測の事態回避」での一致が一番実現性のある合意点であり、尖閣問題は先延ばしするしかないのだ。尖閣は先延ばしして経済文化の交流を優先させる。日中関係改善はこれしかない。次に日中経済協会(会長・張富士夫トヨタ自動車名誉会長)の訪中団に24日副首相・汪洋(対外経済担当)が2010年8月を最後に中断している閣僚級の会合「日中ハイレベル経済対話」の早期再開を提案した。背景には今年1〜8月の日本の対中投資は前年同期比で約4割も減少、中国側が危機感を強めた事が挙げられる。
ただしまずないとは思うが、中国がAPEC向けにだけ軟化、終われば戻るのではないかという点は要警戒でもある。
一方、中国が折れたのを察知して朴槿恵も折れ始めた。24日の国連演説で慰安婦問題に触れるかどうかが注目されたが、慰安婦の言葉は使わなかった。「戦時の女性に対する暴力」に言及したが、これでは一般論である。尹炳世(ユン・ビョンセ)がさきに「韓国は歴史問題と他の分野を結びつけていない。経済交流は積極的に支援したい」と述べたのは、極東での孤立を避けて“史経分離”へとかじを切ったことを意味する。しかし、国内的には反日世論もあり、慰安婦で対日妥協と受け取られたくないから朴の「戦時の女性」発言となったのだ。国内と対日外交両にらみの苦し紛れの発言である。韓国経済の落ち込み、これに同調するかのような朴支持率の低下。対日経済の改善は韓国経済にとって待ったなしなのであろう。
元首相・森喜朗の訪露の根回しの上に実現した安倍とプーチンの電話会談も興味深い。安倍はAPECでの会談を要望したが、国際社会で完全孤立のプーチンにしてみれば、芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」のようにありがたいことだろう。この首脳会談もウクライナはさておいて、両首脳の親交を確認するだけで十分だ。7か国による対露制裁の基調は崩すわけにはいかないが、安倍は“孤立プーチン”とのパイプ役を果たすだけでもよいだろう。こうして極東情勢は依然危うさを内包しながらも雪解けへと向かっているのだ。米国がこの極東デタントを歓迎しないわけがない。ただし対露、北朝鮮外交は米国の疑心暗鬼を招かぬよう密接な連絡が必要なことはいうまでもない。
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