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2014-11-20 07:01
安倍の「同時三大梯子外し」の裏側を読む
杉浦 正章
政治評論家
「敵を欺かんと欲すれば、まず味方を欺け」は古来兵法の要諦。かつて「角さんには何度だまされたことか」と側近中の側近・二階堂進が田中角栄の政治手法を嘆いていたが、優秀な政治家ほど味方を欺く術に長けている。解散断行につながった消費増税の延期に関して、首相・安倍晋三もまず味方を欺いた。増税延期という大目的のために、梯子(はしご)を片っ端から外したのである。まず自民党幹部を幹事長・谷垣禎一と組んで二階に上げて外した。財務省に至っては、幹部がまだ乗っているのに外して、頭から落とした。二人三脚のはずの日銀総裁・黒田東彦も屋根に上げたまま外した。世にも珍しい「平成同時三大梯子外し」である。その内幕を晒すことにしよう。
まず安倍が梯子外しに着手したのは9月の内閣改造人事だ。増税派の谷垣をなんと幹事長に据えたのだ。大マスコミに対して孤軍奮闘しているブロガーの筆者も、時には自慢しないと、素人の読者は当たり前だと思ってありがたがらないからあえて自慢するが、この人事の「真意」を世の中でただ1人看破したのは筆者だけだ。半年前からの「増税引き延ばし方針」と「日中首脳会談実施」予想とともに、今年の3大予想的中だ。もっとも73歳になるまで現役政治記者を貫き通せば、それくらいの読みは誰でも出来る。「谷垣落とし」の証拠の記事が「安倍は谷垣と消費税で“握って”いる」と題した9月3日付の投稿だ。内容は「浅薄なマスコミが『谷垣幹事長人事で消費増税が10%に引き上げられる』と報じている。果たして首相・安倍晋三が、再増税に前向きな谷垣禎一を、クギを刺さないまま幹事長に任命するだろうか。まずあり得ないと思う。むしろ安倍と谷垣は再増税問題でなんらかの“密約”をかわしている公算が強い。“握った”のだ」と断定した。そして「安倍が谷垣の顔を立てて、例えば期限をつけて増税を延期するなどの方策を決めれば、谷垣もノーとは言えないのではないか」と洞察している。全て的中した。
安倍はまず谷垣を取り込んだのだ。19日付の朝日だけが、この話を“立証”している。「安倍の課題はまず、増税を主張する与党首脳の説得だった。『景気が後退したら消費税は上げません』。9月の党役員人事で谷垣を幹事長に起用した際、安倍は谷垣に念を押していた。増税派の谷垣さえ納得すれば、増税見送りでも党内を抑えられると踏んだ安倍は10月下旬から、谷垣に消費増税の先送りと早期解散の相談を始めた」と報じているのだ。安倍はまず谷垣を落とした。3党合意を作った谷垣が延期に賛成すれば、党内は延期になびくと踏んだからだ。一方で副総裁・高村正彦、総務会長・二階俊博、税制調査会長・野田穀らには心中を明らかにしなかった。だからこの3者は首相の意向を確かめもせずに、あちこちで予定通りの実施を唱えた。特に野田と二階が急先鋒だった。野田が「リーマンショックに匹敵する経済変動があるわけではない。予定通り引き上げるのが“当然の姿”」と主張すれば、二階は「国際的な信用にもかかわる。約束通り実行することが最重要政治課題」と言ってはばからなかった。ところが本来なら安倍は説得で黙らせるべきところだが、解散という奇襲戦法で黙らせた。梯子外しだ。これには党内せきとして声なしとなった。勝負は一挙についたのだ。小泉の郵政解散に似て、反対派の掃討作戦が始まり、官邸筋からは野田の選挙公認に反対する声が出ている。
一方ノーテンキといってもいいのが財務省。安倍の心中を最後の最後まで読めなかった。官邸中枢の官房副長官に旧大蔵省出身の加藤勝信を“派遣”しておきながら、ろくな情報も得られなかった。だから大蔵省は省を上げて政界への「多数派工作」を展開したのだ。この結果、官房長官・菅義偉の肝いりで作った延期派の「アベノミクスを成功させる会」も、最初は45人集まったが、切り崩されて10人そこそこにまで減らされた。安倍が激怒したのは言うまでもない。頼みにするのはただ1人財務相・麻生太郎だけとなった。麻生太郎には事務次官・香川俊介が自ら「総理の説得を」と頼み込んだ。安倍とはツーカーの麻生太郎が最後の砦となった。しかしブリスベンのG20から帰国する飛行機の中で安倍の意向を打診した麻生は、安倍の解散までする決意を直接聞いて、あえなく討ち取られてしまった。消費増税先延ばしを規定した同法付則を外すことが精一杯であった。香川は男なら辞任して抗議すべきだが、しそうもない。
最後に外されたのが黒田だ。黒田はもともと財務官僚だ。安倍はアベノミクス推進で黒田に異次元の金融緩和を打ち出させ、二人三脚の色彩を濃くしていた。日銀は2%の物価上昇を分担、政府は経済成長と財政再建の役割を果たすという車の両輪であった。しかしもともと財務省で増税論者であった黒田は、安倍がまさか延期に出るとは思ってもいなかった。政局を読めない官僚のさがであろう。だから黒田は国際金融市場からの信任が失われるとして増税実施論を当初からぶったのだ。そして明らかに安倍の増税実施を促すかのように金融緩和のパズーカ第2弾を打ち上げたのだ。おまけにいささか図に乗ったのか日銀の中立性を毀損する発言までした。12日の衆院財務金融委員会で黒田はパズーカを「2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に実施した」と答弁したのだ。こともあろうに、金融政策を担う日銀のトップが財政の根幹に関わる消費再増税の実施を後押しする発言をしたのだ。中立毀損(きそん)どころか越権もいいところであり、安倍は激怒したと言われる。こうして黒田外しの延期となったのである。黒田の予言のように国際金融市場が動いて国債の長期金利が急騰する気配もない。こともあろうに日銀総裁が、市井の三流経済評論家並みに、大きく見通しを外したことになる。深手を一番負ったのは黒田ではないか。中立の立場を維持せず、出しゃばるからこうなる。
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