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2014-12-22 10:25
キューバ政策転換は「多極化」の必然
鍋嶋 敬三
評論家
オバマ米大統領が12月17日、半世紀以上におよぶキューバ孤立化政策を転換し、国交正常化交渉に入ると発表した。大統領はこれまでの政策の「失敗」を認めた。新キューバ政策では、テロ支援国家指定の見直し、経済制裁の解除など経済関係の強化が含まれる。米国内では「サプライズ・アナウンスメント」と驚きを持って受け取られた。1年半におよぶ秘密交渉がマスコミの活発な米国でよく漏れなかったものである。ウクライナや中東の紛争、北朝鮮によるサイバー攻撃など緊張が続く世界に一筋の光が差した。しかし、年明け1月から共和党主導になる米議会では政策転換に早くも厳しい批判が突きつけられており、関係正常化へのハードルは低くない。
それにもかかわらず、オバマ大統領の決断の意義は大きい。第一に、西半球(南北アメリカ大陸)で東西冷戦の残滓(ざんし)となっていたキューバ問題を解決することで、ラテンアメリカ関係の「トゲ」を抜くことができる。19世紀のモンロー・ドクトリン以来、西半球を勢力圏としてきた米国だが、キューバやベネズエラなどの反米政権の存在が米国の「裏庭」を気楽なものにせず、外交的威信も削がれたままになっていた。対キューバ関係の正常化によって、ラ米全体の対米感情が好転することが期待される。米州機構(OAS)など地域機構の諸国間では米国が主張する民主主義や人権だけではキューバを締め出す理論的根拠としては受け入れられないという認識が強まっていた。
第二に、米国の政策転換によってエネルギーや環境など広範な問題について、地域諸国と前向きにかかわる余地が生み出され、「米国のソフトパワーの強化に役立つ」と米国のラ米専門家(H.Trinkunas氏)は評価している。西半球での国際関係が安定すれば、米国の指導力も強化される。7月にカリブ海のトリニダード・トバゴを訪問した安倍晋三首相はカリブ共同体(カリコム)14カ国と初の首脳会合を持ち、気候変動に伴う海面上昇やハリケーンなど災害対策などへの協力を表明した。米新政策でラ米での日米協力にも弾みがつくだろう。そして、オバマ大統領の対キューバ関係正常化の外交的意義の一つは、多極化世界の中で民主主義や自由主義とは相いれない、体制の異なる国々と共存する道を示したことである。現実に中国やロシアは国際交渉で重要な相手である。しかし、二国間、多国間の関係では国際的な規範やルールを守ることが最低限の基準である。
相互依存がますます強まる多極化世界で、手前勝手な主権の主張で攻撃的手法を繰り返す中国、力ずくでクリミアを併合し、ウクライナの国土侵害を止めようとしないロシアなどは国際基準に反した行動によって西側と対立しているのである。対キューバ正常化で米国の北朝鮮政策が注目されるが、核、ミサイル兵器の強化、サイバー攻撃など安全保障上の脅威を強め、自ら国際的孤立を深めている北朝鮮は、キューバとは別である。アジアでの冷戦の残滓が除去されるには、なお相当な困難を克服しなければならない。
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