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2015-05-28 06:40
維新は「分断」するしかないかも知れない
杉浦 正章
政治評論家
政治家の力量を見るには国会の質問に立った姿を観察するのが一番よい。本物かどうかがすぐに分かる。5月27日に始まった安保法制特別委員会の質疑では、さすがに自民党副総裁・高村正彦が落ち着いて急所をとらえ、見事であった。注目されたのが、今後法案修正など妥協に動くかどうかで焦点となっている維新の党代表・松野頼久の質問だった。しかし、結論から言うと、「売り家と唐様で書く三代目」の言葉が思い浮かばざるを得ない内容であった。愛車はベントレー・コンチネンタル、院内で香水の香をまき散らして闊歩(かっぽ)する姿から、「3代目の若大将」をイメージしていたが、当たらずとも遠からずであった。
「若大将」といっても54歳だが、質問に立って、開口一番父親頼三の話から入った。首相・吉田茂が頼三に「今の日本は飯が食えないような状況だから仕方がないが、松野君の時代には自分の国を自分で守れる国を作りなさい。今は仕方がないが」と述べたという逸話を紹介した。自立自主防衛を勧めたというエピソードだから、さぞや安保法制にも前向きかと受け取れたが、方向は逆だった。松野は、安倍の米議会演説で生じた米国の期待感と比べて、日本での発言が「小さめで違和感を感ずる」と噛みついた。問題は、質問するにつれて、安保法制への理解度が低いことがだんだん分かってしまうことであった。とりわけ安倍が今国会での成立を期していることについて、「今国会でさっと上げるのは急ぎすぎのように見える。何か危機があるのか」と激しく質した点だ。要するに、松野は、北の核ミサイルなど極東を取り巻く情勢が「理解の外」であった。分かっていて聞いているのではなく、本当に実感として分かっていなくて質問している様子がありありであった。
この程度の認識の党代表では、先が思いやられるところだ。最近の発言からみると、過去に民主党が落ち目になると後ろ足で砂をかけるように橋下ブームの維新へと逃げ込んだことをさておいて、今度は民主党への大接近だ。27日も松野は、野党再編を目指す時期について、「区切りが一番良いのは年内だ。来年の参院選できちんとした体制が作れる時期が大事だ」と述べた。明らかに新党設立を視野に、野党勢力の結集を図る意向を明確にした。松野の戦略は、野党が100人程度の核を作れば、総選挙で多数を占めて、政権を取れるという説に基づいている。民主党が2009年に政権を取った時も、自民党が2012年に奪還した時も、100人程度が基礎となっていることを根拠にしている。しかし、これには致命的な誤りがある。2009年は自民党長期政権の土台がぼろぼろになった選挙であり、2012年は民主党の政権担当能力がゼロに近いと露呈しての選挙であった。風が吹いたのである。今回民主と維新が一緒に新党を作って、風が吹くかというと、全く吹かないだろう。まず、大阪市長・橋下徹のようなカリスマ性のある政治家がいない。松野ではまずブームは起きない。一連の国政選挙の結果を見れば、国民は今後十年以上は民主党に政権を取らせないことを固く決意したようにみえる。その駄目の民主と、駄目の維新が一緒になっても“駄目の二乗の定理”が働くだけだ。
このように先が見えていない松野は、今後野党色を強めこそすれ、弱めることはないだろう。ここで重視されるのが官房長官・菅義偉の出番である。菅は議運族の頃松野と極めて親しい関係を築いている。一方で橋下の菅に対する信頼も、大阪都構想を巡る動きで一層強化されている。その橋下の影響下にある大阪系の議員は、松野の独断専行に不満を募らせている。維新内部には、後方支援や集団的自衛権の行使の条件を限定するなどの方向で法案の修正を図るべきとする動きも芽生えている。党内の流れは安保法制を巡って二分化する様相を呈しているのだ。今後政府・与党は、菅ルートなどを通じて維新との「妥協」の動きを模索してゆくことになるだろうが、松野がこれに立ちふさがる可能性も否定出来ない。安倍の「夏までに成立」の決意は固いものとみられ、修正も困難だが、例えば維新の主張を入れて会期を秋まで大幅に延長して、徹底審議を計るなどの打開策が出るかどうかだ。しかし党内には「それほどの妥協の必要は無い」とする主戦論も強く、自民党が舞台裏で「維新分断」に動く可能性も否定出来なくなってきた。6月24日の会期内に衆院を通過させるかどうかを巡って、今後与野党の駆け引きは水銀柱の上昇に正比例して激しくなる一方だろう。
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