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2015-07-17 06:38
極東の軍国主義に決定的な抑止力
杉浦 正章
政治評論家
70年続いた太平の世が「平和は天から降ってくる」という「鼓腹撃壌(こふくげきじょう)の気風を日本にもたらしており、為政者は国際情勢を見極めて時には国民に苦い薬を飲ませなければならないことがある。それが岸信介の日米安保条約改定であり、安倍信三の安保法制である。捨てておけば鼓腹撃壌の民は野党のデマゴーグに踊らされ、衆愚に陥り、日本は軍国主義の近隣諸国の絶好の餌食になる。集団的自衛権の導入が確定したことは、極東における軍事バランスに決定的とも言える変化をもたらす。日米同盟の質は格段に高まり、時が満ちれば尖閣諸島を自国に組み入れ、太平洋の覇権を握ろうとする中国を思いとどまらせ、北朝鮮には対日核ミサイル戦略の見直しを迫まることになろう。韓国は集団的自衛権の行使が可能となったことで、朴槿恵はあらためて「反日」路線が北に対峙(たいじ)するためには得策でないことを知る必要がある。首相・安倍晋三は参院段階でも2か月にわたり丁寧なる説明をする方針であり、やがては国民の理解も深まるだろう。
7月15日の安保法制特別委は、民主党議員がプラカードを掲げて委員長席に殺到、まるで国会前のデモ隊が乱入したかのような様相を呈した。辻元清美は昔の長屋のおかみさんのような金切り声を上げ、みっともなかった。いずれも言論の府にはあるまじき振る舞いである。しかし民主党に腹が据わっていれば、安倍内閣不信任案を上程するところであろうが、その度胸もない。党内は分裂状態に陥る恐れがあるし、解散されれば態勢が整っていない。採決強行を民主党は「民主主義の破壊」と決めつけるが、自民党が公明党と共に戦後6番目の長時間審議の末に、法案採決に踏み切ったのは、最後は多数決で決めるという民主主義の王道を選んだものであり、国会運営に何ら瑕疵(かし)はない。民主党は3年の政権時代にくだらない法案で10数回の強行採決をしているではないか。自分のしてきたことを棚に上げてはならない。
極東の安全保障環境を俯瞰(ふかん)すれば、近隣諸国首脳は安保法制が極東の安全保障にとって、極めて強い抑止力として作用するものであることを理解しなければなるまい。集団的自衛権の行使を容認した日本の存在は、日米同盟が北大西洋条約機構(NATO)に匹敵する戦争抑止力となり得ることを物語るからだ。GDP1位と3位の経済力の裏打ちがある上に、日本の海軍力は中国をしのぐとされている。加えて日本と豪州は準同盟国的な関係となっている。対中警戒心の強いインドも、いざという場合には日米豪準同盟に、参画する可能性が高い。要するに、安保法制は海洋覇権を目指す中国に対する包囲網にとって重要なる支柱の役割を果たすことになるのだ。中国はその覇権戦略の見直しを迫られざるを得まい。軍部の独走もあって東・南シナ海で傍若無人の振る舞いをしてきた中国だが、今後艦船や航空機に対するレーダー照射など日本を小馬鹿にした挑発行為は慎むだろう。中国の新華社電は安保法制について「日本がいつでも必要に応じて自衛隊を海外に派遣し、米軍など他国の軍隊に軍事支援を提供することを認める内容だ」と伝えたが、この報道の中身は誤解があるにしても、報道自体は独走する。中国軍部には戦慄が走ったに違いない。これが安倍の目指す戦争抑止力なのだ。
一方、鼓腹撃壌の民に分かりやすく説明すれば、北の核戦略への影響である。北は金正恩が指導者になって以来、軍国主義の道をひた走りに走っており、2013年には驚くべき宣言をしている。同年4月10日朝鮮労働党の機関紙は、「東京、大阪、横浜、名古屋、京都には、全人口の3分の1ほどが暮らしている」と、5つの都市の名前を具体的に挙げたうえで、「これは、日本の戦争持続能力が一撃で消滅する可能性を示す。日本が戦争の火をつければ、日本列島全体が戦場に変わる」と核ミサイル攻撃を宣言したのだ。これに先立ち横須賀、三沢、沖縄の米軍基地も核ミサイルで攻撃すると表明している。要するに、かつてのソ連ですらしたことがない露骨な「核攻撃宣言」である。
鼓腹撃壌なるが故にノーテンキに東京でデモを行っている人達に、聞いてみたい。北の核ミサイルは良くて、防御の態勢作りは反対なのか。曲学阿世なる憲法学者やノーベル賞学者にも同じ質問をしたい。こうした緊急事態に対処するには集団的自衛権の行使は不可欠なのだ。なぜなら北は日本を攻撃する前に米国のイージス艦を攻撃してその戦力を奪おうとすることは目に見えている。その際、日本が米艦を防御しなければ、米海軍は北の核ミサイル発射基地を粉砕出来ないのだ。
もちろん北の核ミサイルにはより精度の高い米国の核ミサイルで反撃が行われるから、北朝鮮はこの時点で事実上消滅するだろう。そういう切迫した事態が起こらないと言えないのが、刈り上げの指導者のいる北朝鮮なのだ。鼓腹撃壌の民や左翼メディアは目を覚ませと言いたい。その鼓腹撃壌を扇動するのが、朝日などの左傾化メディアだ。16日の朝日の社説も鼓腹撃壌のトーンで貫かれている。見出しに「戦後の歩み覆す暴挙」とあるが、日本が戦後70年間平和でいられたのは、朝日が先頭に立って反対した日米安保条約改定によるものであることが全く分かっていない。「中国の台頭はじめ、国際環境が変化していることは首相の言うとおりだ」と初めて安倍の主張を認めたのはいいが、「憲法改正の手続きを踏むことが筋道」と結論づけている。切迫した国際情勢を知っていながら、10年かかりかねない憲法の改正を悠長にやれというのだ。これは大矛盾の最たるものだ。集団的自衛権の限定行使は、日本がようやく普通の国に一歩近づいただけのことであり、やっと当たり前の国際常識のレベルに達したということだ。国会の手続きは完璧であり、朝日の言う「法治国家の基盤が崩れる」事はあり得ない。最後は多数決で決めるのが民主主義国家であり、論説子はおみおつけで顔を洗って出直した方がいい。
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