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2015-07-23 06:51
中国のガス田は「前進基地」に他ならない
杉浦 正章
政治評論家
あっという間に16基に膨らんだ。中国の海洋プラットホームの建設である。中国外務省報道局長の陸慷は7月22日、日本政府が中国による東シナ海のガス田開発の写真を公開したことについて、「日本のやり方は対立を作り出している。東シナ海での協力や対話に明らかに役立たない。ガス田開発は全く正当で合法」と非難する談話を発表した。しかし、本当に経済的利益だけが目的かといえば、冗談も休み休みに言え、ということになる。南シナ海への進出と合わせれば、プラットホームは、間違いなく中国が九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたる第一列島線を突破し、太平洋の海洋覇権確保を目指す「前進基地」の性格を帯びる。まさに中国国家主席・習近平の目指す「海洋強国路線」を忠実に展開しているのである。日本にとっては戦後まれに見る危機であり、この安保環境の激変は、安保法制で重箱の隅をつつく野党の「机上の空論」を全否定してしまうものだ。
政府がここに来てガス田の実態を発表したのは、安保法制論議でお花畑のような平和天降り論を展開する野党に冷水を浴びせかけるものである。なぜ冷水かといえば、ガス田はすぐにでも軍事要塞化する可能性があるからだ。防衛相・中谷元は国会答弁でガス田について「レーダーを配備する可能性がある。空中偵察も極めてやりやすくなる。東シナ海の中国の監視能力が向上して、自衛隊の行動が従来より把握される可能性がある」と発言した。防衛省筋によれば、プラットホームはすぐにでも軍事基地として転用可能であり、日中中間線にレーダーを配備すれば、沖縄、南西諸島全域の日米両軍の動きを掌握出来る上に、海中に超音波探信儀ソナーを設置すれば潜水艦の動きまで手に取るように掌握出来る。そのためかヘリポートも大型だ。これまで沿岸部のレーダーは地球が丸いためせいぜい尖閣諸島までしか把握できないといわれるが、プラットホームの存在は中国の戦略的な立場を一挙に有利なものとする可能性が高い。場合によっては、核ミサイルを持ち込めばミサイル基地として使えることにもなる。尖閣諸島や沖縄、日米艦船に中・短距離ミサイルが届くのだ。そうなればソ連が1962年にキューバにミサイルを持ち込もうとして、ケネディに阻止されたキューバ危機に勝るとも劣らない危機である。野党やデモ隊の知ろうとしない「環境の激変」とはこのことだ。
このプラットホーム建設の動きは、2012年の野田政権による尖閣国有化後急速に動き始めた。もともと日中は2008年に白樺ガス田を中心とする海域を共同開発区域とする方針で合意、条約化する方向であった。ところが、2010年の尖閣沖漁船衝突事件で交渉は中断。その後の尖閣国有化が共同開発の座礁を決定的なものにした形だ。中国は2008年の段階では外務省ペースで事を運んだが、尖閣国有化は軍部を刺激して、習近平もこれを支持。条約化の国内手続きが事実上不可能になった形だ。その軍部の主張の下に習政権はプラットホームの建設を急ピッチで進め、これまでに既存の4基に加えて、12基を建設するという結果となった。軍部ペースで建設が進んだということは、ガス田が戦略的に極めて大きな不沈空母とも言える価値を持つことになるからだ。したがって、資源エネルギーの確保は実は二の次であるのだ。中国は南シナ海のスプラトリー環礁を埋め立て、対空砲などを持ち込み、3000メートル級の滑走路を作っているが、習の海洋進出構想は着々と進んでいることになる。南シナ海は日米同盟にとって直接的な危機を意味しないが、東シナ海のプラットホームは、同盟の戦略にも大きな影響を与えざるを得ないだろう。日米は戦略の立て直しを協議する必要がある。
共同開発は日中妥協の産物だが、これだけ多数のプラットホームが建設されては、いまや一つや二つの共同開発を進めても気休めにすぎなくなりつつある。中国側は巧妙にも日中中間線の中国側での開発を進めているが、天然ガス資源は地下でつながっている可能性も強く、まさに日本の資源を吸い取るという厚かましさだ。日本としては国際司法裁判所に持ち込むことも考えられる。境界がはっきりしない地域での一方的なガス田建設は国際法に違反する疑いが濃厚だからだ。司法の場に移れば少なくともこれ以上の建設はしないというのが普通の国だが、中国のことだから予断は出来ない。ただし、領土問題は、相手国が既成事実を重ね、これに適時に抗議しなければ主権が移ることがある。首相・安倍晋三は出来れば早い段階での習近平との3回目の会談を模索しているようだが、いうまでもなくガス田問題を取り上げ、中止を明確に求める必要がある。一方で野党は、一国平和主義がガス田問題でいよいよ通用しなくなったこと、安保法制の早期実現が不可欠になってきていることを理解すべきだ。左傾化新聞も若者をだまして、デモに動員する姿勢を改めるべきだ。
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