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2015-09-03 07:01
野田は隔世遺伝の血が騒ぐのか
杉浦 正章
政治評論家
鼎(かなえ)の湧くが如き状況になってきた。平成最大の保革激突法案である安全保障関連法案は9月14日の週の成立へと胎動から陣痛の段階へと入る。政府・与党は参院の議決がなくても衆院の再議決で成立させる60日ルールはできる限り使わず、参院での可決・成立を目指す。民主、共産など野党は院内外の勢力を糾合して「絶対阻止」(民主党代表・岡田克也)へと動くが、ナイヤガラ瀑布が滝壺に向かうように成立への動きは止められない。その激流の中で様々な悲喜劇が派生している。自民党では野田聖子の総裁選立候補問題。野党では維新の党分裂をめぐる確執だ。いずれも本流の流れを変える要素はないが、政権にとっては無視できない問題を抱える。それにつけても隔世遺伝とはよく言ったものだ。野田聖子の祖父は野田卯一だが、やみくもに時の政権を批判し、猪突猛進する傾向を間違いなく受け継いでいる。筆者は1966年の自民党総裁選をカバーしたが、半世紀たって隔世遺伝が表れたとつくづく思う。
66年は佐藤栄作が池田勇人を引き継いで2年目の、向かうところ敵なしの状況であり、首相・安倍晋三の現在と酷似していた。総裁選も池田派・宏池会から会長・前尾繁三郎が出るなど多彩な顔ぶれであったが、突然その池田派に所属しながら野田卯一が立候補したのだ。今の聖子の状況と似て、支持者はほとんどいなかったが、当時の総裁選はそれが可能であった。しかし二けたくらいは取るだろうというのが大方の見方であったが、結果はたったの9票にとどまった。勝敗を度外視してやみくもに立候補しようとする姿勢は聖子がしっかりと受け継ぎ、9月2日も安倍独走の総裁選を「安倍首相の無投票再選は国民への欺瞞(ぎまん)だ。傲慢で不誠実だ」とこき下ろした。1日の会合でも出馬に意欲を示しているが、一体何が野田を動かしているかといえば、「遺伝」に加えて「老獪」が存在するような気がする。老獪とはノーバッジでなお生臭い古賀誠のことだ。安保法案反対の古賀は、野田を使って法案を廃案に持ち込み、安倍を窮地に落とし入れようと究極の勝負をしようとしているのだ。まさに政局への深い読みがなければ出来ない寝技だが、これにまんまとのせられているのが野田なのだ。
野田が立候補できれば、安倍は再選が確定的であるものの、国会と総裁選の両面作戦を強いられる。民主、共産両党がここにつけ込んで、「首相が決まらない限り審議に応じられない」というなりふり構わぬ作戦に出る可能性が強い。政界は並んで腕を組みながら足をかける事例など日常茶飯事だが、野田の安倍に対する「傲慢」批判は人間として度を超えている。小泉純一郎政権で郵政法案に反対して離党を余儀なくされ、その後安倍が支持率を落としてまで野田を自民党に復帰させ、「お帰りなさい」と迎えた「恩義」などは、とんと忘却の彼方か。いずれにしても祖父の泡沫ぶりを受け継ぐようでは、次の首相への踏み台になることなどは不可能と心得るべきだ。翻って、維新だが、大阪の「辞める」はどうも東京の「やる」と言うことを意味するらしい。また大阪の「党を割る」ということは東京の「割って作る」を意味するようだ。大阪市長・橋下徹も首相を目指すなら男らしく宣言すべきであろうが、永田町が怖いのか、迂回作戦なのか「辞める」「辞める」と、かしましい。結局「おおさか維新」とかの新党を作って、政界転出への足がかりを目指しているのだ。ならば、手っ取り早く、新党を率いて自民党に入党したらどうか。
それよりもっと舞上がっているのが維新の党代表・松野頼久だ。民主党をつい先だって離党したばかりなのに、素直に復党するというならまだよいが、現在はまるで出戻り女が亭主に向かって「財布をよこせ」と言っているような場面だ。民主党を解党させて、名前も変えて新党にすると言うが、少ない方が「戻ってやる」とばかりに多い方を牛耳ろうとするのは、置かれた状況が分かっていないということだ。民主党代表・岡田克也が反対しているのももっともだ。大阪府知事・松井一郎が「民主党とその仲間たち」と政界で一番馬鹿にされている某政党をもじって揶揄(やゆ)したのは、近年にない傑作語録だ。維新の分裂は早いと予見したとおり、早くも安保法案と不信任案をめぐって分裂への流れが著しくなってきている。安保法案の採決に当たって、大阪側は「出席して修正案に賛成、政府案に反対」の立場を取る方向だが、東京系は民主・共産両党と同調した強行阻止路線を選択するだろう。また松野らは民主党の国対委員長代理・安住淳が2日表明した会期末の内閣不信任案提出について、賛成する方向だが、大阪系の国対委員長・馬場伸幸は「永田町の悪しき習慣」として、同調しない方針を明確にした。こうしてとうとうたる流れは、コイや雑魚も一緒くたに取り込んで、世紀の安保法案成立へと流れて行くのである。
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