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2015-09-04 20:09
行き詰まるロシア経済とその「双頭」外交
小沢 一彦
桜美林大学教授
今夏8月末から9月初旬まで、「プーチン時代のロシア」を訪問し、昨年度のウクライナ訪問同様、「ウクライナ問題」について現地現場で調査研究して参りました。そのウクライナでは、私のモスクワ滞在中の8月末に、ポロシェンコ大統領の提案した「ウクライナの東部地域へのより高度の自治権付与をめぐるする憲法改正」問題を巡って、賛成派と反対派で激突。政府側の警備隊員3名の死亡や、両勢力の間で150名ほどの負傷者を出しました。昨年度夏のウクライナのキエフ訪問時にも、親ロシア派と親欧米派の対立による死傷者を悼む写真や花束が独立広場周辺で観察することができました。ここ10年ほど、ウクライナは「東西問題」で混乱し、下手をすると「破綻国家」に陥るのでは、と危惧されております。
「ウクライナ問題」を考えるためには、5つの問題点を考察しなければなりません。まず第一は、21世紀の世界秩序形成原理の変化です。20世紀の米ソ冷戦体制の崩壊や、欧米の世界政治に占める比重の低下。BRICSを始めとする新興諸国の台頭をあげることができます。西ヨーロッパも、第二次世界大戦後の民族大移動に匹敵する数十万人の中東(アフガン、シリア、イラクほか)や、アフリカ(スーダンやソマリアほか)からの大量の移民問題に直面し、ギリシアほかの財政危機問題まで抱え、とてもロシアに圧力をかける余力はありません。2つ目は、ここ数年継続している「ウクライナの国の形」を巡る、親ロシア派とウクライナ民族派、親欧米派の対立です。ソ連崩壊後、多くの東欧諸国が西欧に接近し、経済成長を遂げているのに対して、ウクライナでは多少の資源エネルギーや東部の工業生産はあるものの、地球規模の世界市場での競争力は低迷したままです。早く新しい経済力を身に付けない限り、一部特権階層による「ウクライナ版のオリガルヒ」と、一般国民の貧富の格差は拡大する一方です。
3つ目は、ロシアによる対ヨーロッパと対アジアの「双頭外交」です。EUやイギリスを中心とする欧州方面では、軍事力と資源外交を武器に、EUやNATOの東進政策を阻止し、ロシアの緩衝地帯を護持する厳しい態度を示しています。また、東方のアジアでは中国に接近し、両国の関係は飛躍的に改善。露中ともに背後の安全保障の向上で、対外的に拡張主義をとれる状況にあるのです。旧ソ連時代からのカフカス地方や、「ウクライナ」のクリミア半島や、ウクライナ東部の戦略的重要性に、注力できるようになっているのです。4つ目は、プーチンの進めるロシアのさらなる「近代化」で、資源エネルギー依存を脱却、新たな産業を振興し、何とか「ポスト資源外交」を模索している途中に、中国などの経済成長の鈍化などによる、資源価格の暴落を経験したのです。石油や天然ガスの価格低下は、ロシア財政を圧迫し、かつロシアから東西に向かう、ガスパイプラインのルートの重要性さえ、影の薄いものにしております。ウクライナもガスパイプラインを含む、ロシアへの過度な資源依存を脱却したがっているわけで、欧米へ接近するチャンスであるとの見方もあるのです。
5つ目は「腐っても鯛」です。ソ連崩壊後のロシアは、いまだに米国に続く軍事大国の地位を維持しています。ロシアのプーチン大統領も、中国との協調を進めながら、NATOの東進を阻止し、ウクライナやベラルーシを「戦略的緩衝地帯」としておきたいのです。ソユーズロケットではありませんが、民生品はともかく軍事兵器体系は、いまだに世界最高水準です。その他、ロシアとウクライナの相互作用を見る上で大切なのは、スラブ系を中心とするロシアの少子高齢化の急伸と、資源価格の低迷によるロシア経済の成長鈍化です。かつてのロシアでは、石油資源価格の上昇で、国内的には「大国主義」の台頭と、オリガルヒへの富の集中が進みました。しかし、今後、シェールガス開発や海底資源の開発、省エネ政策の継続、世界的原発の建設で、ますますロシアの持つ利益体制の弱体化は必至です。日本も欧米と対露外交での足並みを揃えつつ、北方領土返還の日露間の交渉においても、日本の立場を毅然として繰り返し主張し続けるべきでしょう。
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