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2015-12-07 10:45
トルコがロシア軍機を撃墜した事件の深層を探る
飯島 一孝
ジャーナリスト
シリアへの空爆に絡み、トルコ軍機がロシア軍機を撃墜したことで両国の対立が深まり、一触即発の危険性が高まっている。この背景には、19世紀後半のクリミア戦争以来の両国の憎悪の歴史があり、簡単には仲直りできそうもない。ロシアはシリア紛争で一貫してアサド大統領を支持し、9月からはイスラム国(IS)への空爆に踏み切った。表向きはイスラム過激派対策だが、実際はアサド政権に対抗する反体制派を主に空爆し、欧米から批判を浴びていた。
一方のトルコはイスラム教徒が大半を占める国家であり、アサド政権の反体制派組織を支援していて、ロシア軍と戦闘を交わすことも少なくない。さらに、シリアの石油の利権を巡ってロシアは「トルコのエルドアン大統領がISの石油売買に関与している」と批判している。その理由として大統領の娘婿がトルコのエネルギー相に就任したことを上げている。これを受け、シリアのアサド政権も「トルコがロシア軍機を撃墜したのは、エルドアン氏の娘婿の石油利権を守るためだ」と糾弾している。
こうした事情に加えて、トルコ人には、過去の戦争でロシアに痛めつけられてきた積年の恨みが根強く残っている。両国は前身のロシア帝国とオスマン帝国時代に国境を接し、不凍港を強く求めるロシアが隙あらばトルコの港を奪おうと戦争を仕掛けてきた。トルコはクリミア戦争ではロシアを破ったが、その後の露土戦争では敗れ、それがバルカン半島諸国の独立につながった苦い経験がある。そんな歴史から、トルコ人は1904年の日露戦争でロシアを破った日本に敬意を表し、日本びいきの人が多い。いわば、ロシアはトルコと日本の共通の敵ともいえるからである。
だが、現在ではロシアとトルコの関係も好転し、経済協力が進んでいた。その矢先のロシア軍機撃墜事件だけに、プーチン大統領はその直後「背後から刺された」「トルコはテロリストの共犯者だ」などと激しい言葉をぶつけている。さらに、ロシアは経済制裁をいち早く決めるなど、トルコ側が謝罪するまで許さないという、厳しい姿勢をとり続けている。このロシアの剣幕にエルドアン大統領も「(領空侵犯が)起きなければよかった」などと後悔の念を示しているという。米国など欧州諸国はロシアと協力してISを叩かなければならない大事なときだけに、トルコとロシアのとんだ“私闘”に苦りきっている。いまこそ、両国はISに漁夫の利を与えず、一致協力してイスラム過激派の暴挙を叩かなければいけない。
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