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2016-01-26 10:27
「イスラム国」がASEAN・米サミットの焦点に
鍋嶋 敬三
評論家
2月15、16日に米カリフォルニア州で開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国と米国との首脳会議は、残り任期が1年を切ったオバマ米大統領にとって、アジア・リバランス(再均衡)戦略てこ入れの重要な意味がある。中国の影響が日ごとに増大するアジアで米国のプレゼンスを立て直す必要に迫られているからだ。主要な課題は南シナ海、環太平洋連携協定(TPP)だが、中東を混乱に陥れている「イスラム国(IS)」の東南アジアへの浸透をいかに防ぐかも大きなテーマに浮上してきた。ASEANにとっては経済共同体(AEC)発足後初の主要国とのサミットで、対中国や貿易、投資、テロ対策をめぐってASEANの一体性が試される局面を迎えた。
インドネシアの首都ジャカルタで1月14日、ISによる初めての攻撃で8人が死亡。タイのバンコクでは半年前に爆弾テロにより外国人を含む20人が犠牲になった。専門家はジャカルタ攻撃は東南アジアでのイスラム過激派の攻撃の始まりととらえている。ISはイラクやシリアを越えてフィリピン、インドネシアなど東南アジアで衛星国のような領域を宣言するとの予測もある。マレーシアでは軍人がISに関与したとして逮捕され、タイ南部でもイスラム過激派の活動が活発だ。シンガポール政府は最近、バングラデシュ人27人を国外追放した。イスラム過激派のテロ細胞の摘発は初めてで、リー首相は「彼らは重大な脅威だ」と警戒感を露わにした。インドネシアは世界最大のイスラム国家である。世界のイスラム人口の4分の1を占める東南アジアはISの勢力拡大の温床になろうとしている。
米国は首脳会議を前にケリー国務長官がアジアを歴訪、中国寄りのラオス、カンボジアを「引き戻す」外交を展開中である。ラオスは2016年のASEAN議長国、経済的に中国に大きく依存する。親中国のカンボジアは2012年の議長国当時、南シナ海問題でASEANとしての統一見解をまとめられなかった。中国の圧力が強く働いたことは間違いない。米国は今回もラオスが同じ轍を踏むのではないかと警戒を強めている。スイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で1月22日、カーター米国防長官は中国が南シナ海を軍事化していることが、紛争当事国を米国側に押しやり、中国は「自らを孤立させている」とけん制した。
シンガポールのターマン副首相は同じダボス会議で、ASEANがとるべき方針として「積極的中立」を掲げた。「中立」といっても受動的なものではなく、一方的な力による主張に対しては国際裁判所に問題を提起することを提案、二国間の直接交渉に固執する中国とは一線を画した。わずか3ヶ月前のASEAN・米首脳会議(マレーシア)で発表した「戦略的パートナーシップ」共同声明の最大の成果は、東アジアサミット(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、ASEAN国防相会議プラス(ADMM+)など、ASEAN主導の多国間安全保障対話や協力のメカニズムを通じた双方の協力の強化であった。TPPにはASEANからシンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナムが参加しているが、大筋合意以降、フィリピン、インドネシア、タイが参加希望を表明した。このような東南アジア諸国の動きそれ自体が中国に対するけん制になっている。
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