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2016-04-12 06:54
「謝罪なし」でオバマの広島訪問実現の公算
杉浦 正章
政治評論家
歴史問題は、どこかの国のように「謝れ」一点張りでは物事は進展しない。本当の意味での忍耐を「ならぬ堪忍するが堪忍」と言うではないか。米国務長官・ケリーに次いで大統領オバマが原爆死没者慰霊碑に献花をすれば、それが謝罪でなくて何であろうか。言葉は使わなくても、ボディーランゲージを読めば明らかに謝罪である。ケリーの米閣僚初訪問自体が安倍政権による外交の成果であり、これにオバマと続けば大成果と言えるものだろう。ここは半ば実現しかかっているオバマの広島訪問を、万難を排して実現させるべき時だ。夏の国政選挙に向けてプラスに作用することは間違いない。それにしてもホワイトハウスは大統領選挙の最中という極めて微妙なときに広島訪問の可能性をよくリークしたものである。折から共和党候補のトランプが日韓両国の核保有容認論を唱えて、核問題が大統領選の争点として浮上している最中である。民主党寄りのニューヨークタイムズも「大統領が日本への謝罪を示す言動は大きな政治問題となる」と“忠告”しているほどである。それではなぜホワイトハウスがワシントンポストにリークしたかと言えば、トランプ発言を逆手に取れば逆攻勢となりうると判断した可能性が高い。トランプは広島訪問が実現すれば口を極めてオバマ非難に転じて「大統領は懺悔と謝罪の旅に出た」などと批判することは目に見えている。
トランプ発言に対しては既にホワイトハウスは大統領副補佐官ローズが「戦後70年堅持してきた核の分野における外交政策の前提は、核兵器の拡散防止だ。どの政党が政権を握ってもこの立場に変わりはなかった」と説明、「既存保有国以外への拡散容認は悲惨な結果をもたらす」と痛烈に批判している。オバマがこの核拡散防止路線の維持を広島で発言すれば、大きなクリントン支援となるだろう。ワシントンポストへのリークで米政府高官は「プラハで核なき世界を訴えた時のような演説をする可能性がある」と述べて、オバマが核なき世界を訴えたプラハ演説の“完結”としての演説をする可能性を示唆している。8年前の演説後オバマはノーベル平和賞を受賞しているが、その後ウクライナをめぐる米ロ対立で核兵器削減は思うように進まず、北朝鮮への拡散など“核危機”はかえって増大している。加えてオバマ自身の広島、長崎への「思い」がある。2009年の首相・鳩山由紀夫との会談後の記者会見でも、「将来、(広島、長崎)両市を訪問することは当然光栄なことであり、非常に意義深いことだ」と語っていた。6年半ぶりにやっと宿題を果たすことになる。この流れを促進しているのが駐日大使・キャロライン・ケネディであるといわれる。ケネディは自ら「原爆の日」の平和記念式典に出席、折を見てオバマも訪問するようアドバイスしている。
ホワイトハウスは「大統領選の年に広島を訪問することで外交上の批判が生ずる可能性を十分認識している。ケリー長官の広島訪問を大統領訪問の前哨戦として注視している」とも述べ、ケリーの広島訪問をオバマ訪問の最終判断をする上でのテストケースと位置づけている。恐らくケリーは帰国後オバマから見解を求められることになるが、ケリーの発言を分析すれば、オバマに対しては「ゴー」のサインを送るに違いない。ケリーが広島訪問で見ていたのは、日本政府だけでなく、国民やメディアの反応であっただろう。まず日本政府はこれまで主張してきた「核兵器の非人道性」の表現を「広島宣言」から取り下げた。もちろん背景にはオバマ訪問実現への深謀遠慮があった。また核廃絶に関しても広島宣言は「現実的で漸進的なやり方でなければ達成できない」と主張した。これは国連に台頭している非核保有国の急進的な核兵器禁止の動きと一線を画し、米、英、仏など核保有国の主張に寄り添ったものである。さらにケリーが注目していたのは「謝罪」の要求が国民の間にどれほどあるか、またマスメディアがどう反応するかであった。謝罪することは、米国の世論調査で依然として「日本への原爆投下は正当化される」という答えが56%と半数を超え、原爆の投下を肯定的にとらえる評価が強いこともあって、事実上困難である。
ケリーも謝罪はしなかったが、その発言は謝罪の意味を含むものといえる内容であった。例えば資料館の感想で「衝撃的な展示で胸をえぐられる思いだ」と述べているのはその例だ。ぎりぎりの表現で日本国民に分かってもらおうとしている。芳名帳には、「世界中の人々がこの資料館を見て、その力を感じるべきだ」と記した。記者会見では「いつか大統領もそのひとりとなってほしい」と発言した。これらの発言を総合すれば、ケリーの“露払い”は、オバマ訪問への道を開いたと受け取れる。日本としては核保有は論外であるにしても、核兵器を振りかざし、今にも使用しそうな発言を繰り返す狂気の指導者が北朝鮮に存在する限り、米国の抑止力としての核は不可欠である。オバマの言う「核なき世界」の実現は容易ではないが、広島でオバマがこの信条を繰り返す可能性は強く、この路線は総じて歓迎されるべきものであろう。要するに歴史問題は未来志向を優先させるべきだ。「謝罪」の言葉にこだわり続ければ民族の度量が疑われることになる。
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