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2016-06-03 10:30
東シナ海を南シナ海にしてはならない
鍋嶋 敬三
評論家
主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)の首脳宣言(5月27日)は国際法に基づき、力や威圧の不使用、紛争の平和的手段による解決の追求という「海の3原則」を再確認。東シナ海、南シナ海の状況に懸念を表明した上で、海洋安全保障に関するG7外相声明を支持した。安倍晋三首相は自ら提唱した3原則が「G7の共通認識になった」と総括した。香港紙の報道によると、中国人民解放軍筋が米国の出方次第では南シナ海に防空識別圏(ADIZ)設定の意図を示した。G7の懸念が正に現実味を帯びてきた。中国は既に2013年に東シナ海にADIZ を設定し緊張を高めている。
中国の習国家主席はフィリピンの対中強硬派アキノ現政権に代わるドゥテルテ次期大統領に「友好的で安定した健全な発展は両国の基本的な利益」とする祝辞を送った。ドゥテルテ氏も習氏を「偉大な」指導者と持ち上げた。中国海警によるフィリピン漁船いじめがぱたりと途絶えたといわれる。中国の狙いは、南シナ海紛争が中国対東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の問題にならないようにすることだ。先にブルネイ、ラオス、カンボジアを抱き込み、最強硬派のフィリピンが2国間交渉に応じれば、残る強硬派はベトナムだけだ。これからも各個撃破に注力するだろう。
東シナ海の尖閣諸島(沖縄県)では2008年12月以来、中国公船による領海侵犯が続く。日本政府は「わが国の主権を侵害する明確な意図を持って実力による現状変更を試みるもの」と断じた。2016年1月ー5月の領海侵犯は延べ42隻。5月の11隻は2014年9月(10隻)以来の高水準だ。接続水域への侵入も5ヶ月間で延べ290隻に上る。中国は東シナ海で日本の抗議を無視して、16基の掘削用構造物を建設、一方的にガス田開発を進めてきた。安倍首相は3月、海上保安学校の卒業式に総理大臣として初めて出席し「領土、領海を断固として守り抜く」との決意を述べた。領土を守るには(1)政治的な確固とした意思(2)国民の強い支持(3)防衛力の充実が不可欠である。領土への侵略を許すのは防衛の不備を突かれたからだ。北方領土(北海道)は日ソ中立条約を破って対日参戦したソ連が終戦後の1945年8月28日以降に米占領軍がいないのを見て4島を不法占領した。竹島(島根県)は日本が連合国占領下の1952年1月、サンフランシスコ平和条約発効直前に韓国が「李承晩ライン」を設定し取り込んだのである。
東シナ海が南シナ海と同様になるのを避けるためには(1)海上保安庁の装備の大幅な増強(大型、高速巡視船のさらなる建造と支援施設の拡充)(2)自衛隊配備の南西シフトの強化(オスプレイの配備を急ぐ)(3)日米同盟関係の強化によって、抑止力を高めることが必要だ。オバマ米政権は尖閣諸島に対する日米安全保障条約上の防衛義務を公言してきたが、日本による実効支配が前提である。米国内には「無人島防衛」のために中国との軍事衝突に巻き込まれることへの反対論が根強い。米大統領選挙で共和党候補指名が確定したトランプ氏は日本や韓国からの米軍撤退や駐留軍経費の全額負担を要求している。第2次大戦後、米国が在日基地を維持できたおかげで冷戦下もその後も、米国が戦略的に大きな利益を受けたことを無視した無責任な暴論である。
「トランプ大統領」になれば、日本や韓国との同盟関係は極めて不安定になる。中国やロシア、北朝鮮にとってこれほど喜ばしいことはない。「棚ぼた」でアジアの勢力関係がひっくり返るからだ。中国はこれを好機と動き出そう。その手始めが武装民兵(偽装漁民)による尖閣上陸、「自国民保護」を名目にした海警の出動である。軍事衝突寸前の段階まで緊張を高め、日本政府と日本防衛に対する米国の意思と実行力を試すのである。これは日米同盟が有効に働くか、崩壊するかの分岐点になる。もしも、米中間でアジア太平洋の勢力均衡について同盟国の利益を犠牲にした暗黙裡の暫定協定(modus vivendi)ができるとすれば、中国の覇権成立につながる地政学上の大転換を招くだろう。
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