ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2016-06-21 06:51
東大生右傾化の潮流を探る
杉浦 正章
政治評論家
東大生の右傾化は今に始まったことではないが、まさか自民党への支持率が今世紀最高の30.3%で、民進党4.5%、共産党1.7%とは驚いた。今年入学した新入生への東大新聞のアンケート調査である。NHKの政党支持率が、自民党が38.1%、民進党7.6%、共産党3.2%だから、ほとんど一般人と傾向が変わらない。同じように選挙権を得た18歳、19歳に対する朝日新聞の郵送調査は、自民20%、民進5%だから、東大生の右傾化は著しく目立つ。相当悔しいのか、首相・安倍晋三を不倶戴天の敵とばかりに連日批判を繰り返す元外交官・孫崎享が、メルマガで「東大生は社会正義の感覚すら身につけていないのか、自分だけ『勝ち組』に入ればそれでいいのか」 と怒髪天を突くような怒りかたをしているが、「社会正義」と政党支持率がどう関係するのか。常日頃思うのだが、どうもこの評論家(孫崎)の論旨はあさってどころか、しあさってを向いている。安倍批判のための批判に堕している。それにしても東大がこれでは、早稲田や慶応などほかの大学は推して知るべしだろう。参院選挙における240万人の18歳、19歳の新有権者の動向は、どうも政治を左右する勢力にはなりそうもない。
東大生と言えば、安保闘争で死んだ樺美智子や、全学連初代委員長・武井昭夫、安田講堂立てこもり事件などを思い出す。筆者は都立駒場高校の生徒の頃「東大駒場祭」ヘ行って1串10円の焼き鳥をぱくぱく食べたら、翌日新聞に「駒場祭、犬を殺して焼き鳥」と出たのにはぶったまげた。犬の腸を食わされたのだ。そういえば駒場周辺には野良犬がいなかった。寮は一部屋に数人が住んでおり、まるで貧民窟のような有様だった。ビラや張り紙は安保反対が圧倒的で、自民党支持など1クラスに1人か2人いればいい方だった。要するに、左翼思想が圧倒的に東大の風潮を支配し、旧制一高以来のバンカラと同居していた。最近ネットで見つけた1953年当時の東大生による各政党支持率は、左派社会党32.0%、右派社会党11.2%、日本共産党7.5%、自由党1.6%、改進党0.8%、労農党0.8%だった。
これが今年の新入生は自民党30.3、共産党1.7だから完全に逆転している。今回の参院選で野党4党は安保法制破棄の一点でのみ合意に達して、戦おうとしている。その安保法制についても東大調査は、評価する41%、評価しない36%だ。この逆転の潮流はなぜ発生したかだが、ひとえに入試制度のなせる業だろう。塾などない時代の東大生は、貧乏人の子だが頭が抜群によくて、学校の先生が両親を説き伏せて東大に行かせるようなケースが多かった。頭が良ければ受かった時代だ。その意味では貧乏人でも門戸が開かれていた。ところが受験競争の激化と共に、受験産業が台頭して、専門家による指導がなければ受験技術を体得できない時代へと変貌した。紛れもなく学歴は親の金次第となった。東大の調査では89.5%が塾に通った経験がある。塾に長期に通えるというのは親の経済力が大きく物を言う。教育統計学者・舞田敏彦の調査によると世帯主が40~50歳で世帯年収が950万円以上ある家庭の割合は、一般世帯で22.6%に対し、東大生の家庭では57.0%を占めたという。
家計を支えている父親の勤務先は「従業員1000人以上」が48.4%と半数近い。職種では「管理的職業」43.4%、「専門的・技術的職業」22.6%の順に多い。これは親の職業が、エグゼクティブ層や医者などの専門的なものが多いことを物語っている。これらの親が息子や娘とどんな会話をしているかと言えば、エスタブリッシュメントの支配階級だから、まず民進党や共産党支持者はいない。安保法制も是認が圧倒的だろう。夕食での会話で父親は「戦争法案と呼称するのはおかしい。安保法制は自衛的なものだ」と正確に分析し、「徴兵制になるというのは嘘だ」と言い切っていたに違いない。そして法案が成立、施行されても戦争は起きないし、徴兵制は施行されない。「やっぱり父さんの言うとおりだ」ということになって、野党の主張など信用出来ないことが分かる。これが若者の傾向だ。
対照的に「戦争法反対」「徴兵制反対」を今でも唱えるSEALsとかいいう、学生組織はどうか。近ごろさっぱりマスコミが取り上げないが、健在なのかと言えば、いることはいるという感じだ。6月19日に奥田愛基が有楽町で4党党首と合同演説会をしている場面に偶然遭遇したが、昨年の国会前で見せた新鮮味が消えた。奥田が司会をやっていたが、最後に「ちょっとだけコールさせてください」とことわって、「野党は共闘」「市民も共闘」「今回ばかりは野党を応援」などと叫んでいた。なにやらかつてのオウムが衆院選でわけのわからん“呪文”を唱えたごとくに、しんぶん赤旗と同じ陳腐なコールを続けている感じがした。観衆も動員以外は全く沸かなかった。やがては共産党に引き込まれてゆくのであろう。こうして若者の保守化傾向には、もともと存在するネトウヨに加えて、最近ではネトウヨ主婦までが加わる様相。新有権者240万人は一般人の政党支持率と大差がない傾向を示して、有権者総数1億424万人のわずか2%でもある。聞かれれば70%~80%が投票に行くと答えるが、疑わしい。例えそうでも、他の有権者と同様の傾向ではインパクトは少ない。若者の投票より倍以上の積極的な投票行動を見せる60歳以上の老人パワーの動向の方がより注目される流れであろう。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム