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2016-06-28 06:54
離脱ショックはトランプを不利にする
杉浦 正章
政治評論家
焦点は、英国の「衆愚の選択」が米国に波及してトランプを勢いづけるかどうかだ。半可通のテレビ・コメンテーターらは「トランプ有利」と反応したが、離脱ショックに加えてトランプショックを受けたら、世界は紛れもなくカオスに突入する。しかし米国民の選択は、イギリスの受けたショックを奇貨とし、反省して、クリントンに向かうかのようである。一方、「衆愚の選択」を英国の政治がどう取り繕うかと言えば、まず時間をかけるだろう。来年どころか、5年先になっても、最終決着はしないと思えば良い。離脱は「方向」であって、「決定」ではないのだ。その間事態は、「離脱」から「離脱撤回」の間を行きつ戻りつして、数々の弥縫策も浮上しては消えるだろう。日本は慌てふためくことはない。構造的な円高になれば「新アベノミクス」で対処するだけだ。歴史の審判などを悠長に待つ必要はない。すぐに分かる。鳥瞰図で見れば、まずすべての元凶は、議会制民主主義の国イギリスの首相・キャメロンの大誤算にある。議会制民主主義つまり間接民主主義を否定して、国民投票などという直接民主主義の愚かな選択をしてしまったことにある。
EU離脱などという国家の命運を左右する大問題は、官僚が積み上げ、政治が判断を下す、という議会主義の鉄則に委ねるべきであった。それを大衆の直接判断に委ねた結果、「大英帝国の復活」などと言うとてつもない空想的感情論まで生じてしまった。衆愚は、その感情論を後悔し始めたと聞くが、後悔は先に立たずである。背景には世界を覆い始めた反グローバリズムの潮流がある。第2次大戦後に世界がようやく培ってきた、国連やEUなどにより戦争を未然に防ぐという国際平和主義の大理念を、一国繁栄主義で崩そうとするエゴイズムの台頭である。その先例がまさに今回の英国ショックであり、これは今後ヨーロッパ各国に伝搬し、米国にも波及する可能性がある。トランプはこの英国民の選択に小躍りし、「イギリスの国民投票と、私の選挙戦は、実によく似ている。人々は自分の国を取り戻したいのだ。国民は国境を求めている。どこからやって来たのかもわからない人々を自分の国に受け入れたいとは思わないのだ」と発言した。自分の反移民政策、人種差別発言がイギリスで実現した、と喜んでいるのだが、果たして米国民の大勢に波及するだろうか。筆者は逆だと思う。米国民にとって、イギリスのショックは反面教師となった。今後英国民が味わうであろう英国経済の停滞、ロンドン金融市場の低迷、国論の分裂、国家の分裂などの“地獄の辛酸”は、トランプ支持の米国民を我に返らせるだろう。大統領選挙までの4か月間の時間は、「これでもか」と言うほどに、英国民の選択の過ちを米国民に伝え続けるだろう。
既にその兆候は現れている。これまでクリントンとの間で拮抗(きっこう)していた支持率が、クリントン有利に展開し始めたのだ。アメリカのABCテレビとワシントン・ポストが6月26日に発表した世論調査にると、民主党の指名獲得を確実にしたクリントンの支持率は、先月よりも7ポイント増えて51%、共和党の指名獲得を確実にしたトランプの支持率は7ポイント減り39%となった。さらに、66%の人がトランプはイスラム教徒や女性などに対して偏見があると答えたほか、トランプが大統領に必要な資質がないと答えた人は、これまでで最も高い64%に上った。明らかに英国ショックはトランプに今後もマイナスに作用し続け、負の選択ではあるがクリントンを優位に立たせるだろう。焦ったトランプは選挙参謀をクビにしている。今後英国とEUの交渉は長引くだろう。離脱はリスボン条約によって通知があって初めて開始され、それ以後2年間をかけて協議が続く。その通知は英国内の事情によっていくらでも遅らせる事が可能だ。紛れもなくEUの危機が続くことになるが、「早期に手続きを進めるべき」とするEU内の空気に、各国指導者を抜きん出て見事な発言が目立つのがドイツ首相・メルケルだ。「急ぐつもりはない」「短期間に結論を得ようとは思わない」「ブレーキをかけるつもりも、アクセルを踏むつもりもない。英国が考える時間を必要とすることは承知している」など、いずれも大局を見詰めた発言である。英国政府の置かれた立場を見抜いて、なお時間的な余裕を持たせようとする発言には、危機に際したリーダーの模範とすべきものがある。
日本政府の対応も、休日を利用して様々な沈静化策を打っており、世界中から注目された週明け東京株式市場も暴落どころか、350円の上げで終了した。初戦はまず国民の冷静な判断と、政府の対応の適切さを物語るものであった。野党は民進党代表・岡田克也が「通貨の乱高下が景気破たんに拍車をかける。宴は終わった」と唱えれば、共産党委員長・志位和夫は「ショックに弱いアベノミクス路線は駄目」と専らアベノミクス批判のボリュームを上げている。しかしこういった事態をまるで予測したかのように首相・安倍晋三は消費増税再延期を実施し、サミットで世界経済の前途に警鐘を鳴らした。野党はこれを批判しまくった自らの立場を棚に上げての批判である。まさに何でも活用して批判をすればよいのが民共両党であり、視野狭窄(きょうさく)であり、国民への訴求力はない。安倍は円安が恒常的になるかどうかを見定めて、円安を基盤としたアベノミクスを、円高対応型に切り替え、予定通り早期に臨時国会を召集して、財政出動など景気対策を打ち出せば良い。
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