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2016-09-08 06:38
もはや専守防衛だけでは対応できない北のミサイル危機
杉浦 正章
政治評論家
空しく響くばかりだ。またも国連の北朝鮮非難声明である。非難声明を出す度に無力な国連の姿をさらけ出している。一方で日本攻撃用弾道ミサイル・ノドン3発を同時発射させた金正恩は、醜い高笑いを繰り返している。最貧国指導者の危険な火遊びと、狂気の高笑いである。ロシアが止めても、中国が止めるふりをしても、全く暴走を止めない。そうこうするうちに発射技術は向上の一途だ。日本に核攻撃した後も高笑いするのだろう。歌の文句なら「もうどうにも止まらない」だ。何をするか分からないから“狂気”なのであって、日本はもう専守防衛の時代ではない。やむにやまれず国民を核の脅威から守る自衛策を打ち立てなければならない。それは敵基地先制攻撃能力の確立であり、高高度防衛ミサイル(THAAD)の導入である。首相・安倍晋三が習近平に「中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議開催中に強行したのは許しがたい暴挙だ。責任ある国連安保理常任理事国としての中国の建設的な対応を期待する」とねじ込んだのは、中国への抜きがたい不信感が背景にある。度重なる国連の制裁決議を無視するかのように中朝国境の豆満江にかかる二つの橋は、中国と北朝鮮の交易で毎日ラッシュ状態。ミサイルの材料だろうが、核転用の材料だろうがどんどん入ってきて、北はいささかの痛痒も感じない。
その豆満江に台風によって観測史上最大の洪水が発生、約4万4千人が屋外生活を強いられているにもかかわらず、北の太った大王はミサイルと核開発に専念だ。近く5回目の核実験をする兆候がみられる。米韓両国は大王の寝首をかく合同演習に続いて、最近はコンピューター・シュミレーションによる演習で、韓米連合軍は、平壌北側まで進撃して北の指揮部を壊滅させることができるという結論に至った。もはや準戦時状態のような様相である。この事態を目前にして、日本は国民の生命と財産を守るにはどうすればよいか。天から核ミサイルを降らす狂気の指導者が近隣にいるのに、天から平和が降ってくるなどという専守防衛一点張りの思想などもう成り立たなくなった。そのことをまず国民は認識すべきだ。その戦略としては盾と矛の両面作戦しかあるまい。従来日米の軍事協力は盾が自衛隊で守りに専念、矛が米軍で攻撃を受け持つ形だ。しかし、米国はかつてのスーパーマンではなくなった。米ソ冷戦時代に展開された盾と矛分担作戦は、北の狂気の指導者によってもう古色蒼然たるものと化した。日本も矛の役割を分担しなければ、この危機は乗り切れないのだ。
それにはまず憲法上可能と政府が判断している敵基地攻撃能力の確立だ。北のノドンの200発は、日本攻撃を主眼に置いており、ミサイル防衛システムだけではとても核ミサイルを同時に撃ち落とす事は無理だ。これ見よがしに金正恩が3発を同時に発射させ、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させたことは、「日本は防ぎきれないぞ」というどう喝に他ならない。対抗するにはどの国もが持つ敵基地先制攻撃能力をミサイル迎撃能力と併せ持って、初めて北朝鮮の核から国民の生命財産を守ることが可能となる。既に韓国は米国の反対を押し切るかのように巡航ミサイルなどによる敵基地攻撃能力を備えてきた。日本は着弾まで10分間の時間があるが、韓国はほとんど時間がない。ミサイル発射準備が整ったと見れば発射前に叩くしか国民の命を守れないのだ。日本の軍事専門家の中には移動式ミサイルは把握できないと述べる半可通がいるが、韓国の専門家は、移動する場所も限られており、無人偵察機などで十分に識別可能だとしている。幸いにも日本の場合航空自衛隊が次期戦闘機として42機の導入を決めている最新鋭ステルス機「F35A」の最初の4機が、今月中に引き渡される。政府はこのF35Aに敵基地攻撃能力を備えさせるべきだろう。空中給油なしでも朝鮮半島、ロシア、東シナ海まで戦闘行動が可能であり、『合同空対地長距離ミサイル』(JASSM)も備えることが可能だ。このミサイルの射程距離は約370キロであり、これをつければ敵基地攻撃能力は十分可能だ。加えて艦船から発射できる巡航ミサイルも装備すべきだろう。
一方発射されたノドンから国民を守る盾は、現在のところ大気圏外で迎撃できるミサイル「SM3」を搭載したイージス艦と、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」だ。従来の「SM3」より射程を大幅に伸ばした新型迎撃ミサイルをアメリカと共同で開発に取り組んでいる。しかし複数のミサイル攻撃には、これでも撃ちもらしが生ずるとされる。従ってTHAADが必要になる。韓国にも配備されるが、日本はその要となっているXパンドレーダーを京都府京丹後市と青森県の米軍車力通信所に配備しており、これに迎撃ミサイルを連動させることで、THAADを実戦配備することが可能とみられる。それにしてもこの高性能レーダーと最先端のそうりゅう型潜水艦は、北の地上と水中からのミサイル発射を捉えているのだろうか。秘密保護法を恐れるあまりその動きを外部に出せないのだろうか。血税を使ったこれらの新兵器の活躍ぶりは、国民に安心感を与えるために随時政治家がリークすべきではないか。こうした中で米国はオバマが核の先制不使用を断念した模様だ。ワシントン・ポスト紙によると安倍は「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、先制不使用政策への懸念を米側に伝えたという。安倍自身は全面否定しているが、日本の意向は何らかの形で伝わったのだろう。オバマもするに事欠いて北のみならず中ソからまで馬鹿にされる対応は、いくらレガシーを残したいからといってもやめた方がよい。極東の現実にそぐわない。
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