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2016-09-28 05:52
米大統領選はクリントン優勢が確定的に
杉浦 正章
政治評論家
まるでだだっ子を笑顔であやす母親のようであった。短慮のいらだちには微笑で返した。クリントンの勝ちだ。日米の報道機関でNHKだけが夜7時のニュースでクリントンとトランプの討論を「対等」との分析で報道、特派員も「五分五分の戦い」と形容したが、一種の誤報であろう。公共放送が国民の判断を大きく誤導して遺憾である。討論内容をつぶさにメモをとって分析したが、どう見てもクリントンが圧倒していた。クリントンは環太平洋経済連携協定(TPP)を巡っては守勢であったものの、外交・安保、核問題、人種問題、健康問題などではトランプを圧倒した。これまでの大統領選を見ても、テレビ討論の初戦の勝利は継続する。クリントンは11月8日の大統領選勝利に向けて、大きな地歩を気づいたといわざるを得まい。討論の結果はメデイアがどう見るかで決まるが、米国の新聞、テレビの大勢はクリントンに軍配を上げている。ニューヨークタイムズは社説で、「討論の進展につれてトランプ氏は、クリントン氏との議論に苦しみ、挽回できなかった」とクリントン優勢を伝えた。ワシントンポストも「大統領にふさわしいのはクリントン氏だけだということが証明された」と報じた。CNNに至っては、世論調査でクリントンの勝ちが62%だったのに対してトランプは27%と報じた。CNNは民主党寄りだが、それにしてもこの差は大きすぎる。
それでは項目別に勝敗を分析し、点数をつけてみる。まずTPPでトランプは「クリントン氏は大統領になったら賛成するだろう。私が反対と言ってから突然反対に回った」と酷評した。これに対してクリントンは「それは事実ではない。反対意見を述べている」と反論したが、押され気味で50点対50点で引き分け。次に人種差別問題ではクリントンが攻勢をかけた。「ドナルド(トランプ)はアメリカ初の黒人大統領をアメリカ人ではないと間違った表現をした」「73年に人種差別で司法省から訴えられた。アフリカ系アメリカ人に住宅の賃貸を拒否したからだ」と突いた。ところがトランプは、これに正面から反論できずに、訳の分からない言葉を羅列して話をそらした。これによって、黒人やイスラム教徒の票は一挙にトランプを離れ、90点対10点でクリントンの勝ち。
日本にも関わる対同盟国関係でも、トランプは浅慮を浮き彫りにさせた。まず北大西洋条約機構(NATO)についてトランプは「NATOは時代遅れだ。米国は費用の73%も負担している」と、米大統領の伝統的なNATOとの深い関係維持を直撃した。これに対してクリントンは「NATOは軍事同盟であり、一国への攻撃は加盟国すべてに対する攻撃と見なすことになっている」とじゅんじゅんと諭した。またトランプがたびたび日韓両国の核保有を認める発言をしていることに対して、クリントンは「トランプは東アジアで『核戦争が起きても大丈夫。楽しんでね』と言っている」と、核問題をもてあそぶ姿を浮き彫りにした。その上で「韓国、日本とは安保条約を結んでいる。相互防衛条約をを尊重すると約束したい」と言明した。また「世界の指導者に米国に対する疑念が巻き起こっている」と、トランプ発言で日韓両国などに対米不信が生じていることを明らかにした。最後に、クリントンは「核の拡散はテロリストに核が渡る危険がある。簡単に挑発に乗る人が核のボタンのそばにいては問題だ」と指摘して、大統領としての資質がトランプにないことを浮き彫りにさせた。中露が力による現状変更に躍起となっており、北が危ない核の火遊びをしている現状を、トランプは理解せず、日本がアジアでの防波堤となって米国の利益になっていることなど、とんと無知であることを浮き彫りにさせた。総じて同盟関係でも、核問題でも、トランプの無知蒙昧ぶりとその極端な主張が露呈されて、100点対0点でクリントンに軍配。
さらにクリントンは、トランプを巡る金銭疑惑も浮き彫りにした。クリントンは「これまでどの大統領候補も確定申告書を公開してきた。なぜ公開しないのか」と疑問を投げかけ、その理由について「ドナルドが言っているほど金持ちではないからか。慈善団体への寄付をしていないからか。連邦政府への所得税を一切払っていないからか」と追求した。これに対してもトランプは話をそらして、饒舌にほかの問題を語っていた。おまけに「ヒラリーがメールを公開すれば自分も公開する」と焦点を外そうとした。クリントンの攻勢に圧倒された形で、90点対10点。私用メール問題はクリントンが陳謝をしただけで終わり、みそぎが済んだ形だ。
最後に、クリントンの健康問題でトランプは「ヒラリーには、大統領としてのスタミナがない」と痛いところを突いたかに見えた。ところが、クリントンは「ドナルドは120か国を歴訪して、停戦合意や反対派の釈放を交渉し、11時間に渡って議会で証言してから、言ってほしい」と切り返した。加えてクリントンは見る限り健康そうであった。この切り返しにトランプはグーの音も出なくて、70点対30点でクリントンの勝利。ほとんどすべてに渡って、クリントンの圧勝に終わったが、この背景にはクリントン陣営がトランプ発言や性格の傾向などの事前分析を徹底的に行い、模擬討論を行ってまで弱点を浮き彫りにさせる作戦を展開したことが成功したと言える。これに対してトランプはほとんど準備をせず、当意即妙ぶりを発揮しようとしたが、場当たりで、大統領としての能力のなさばかりが目立つ結果となった。大統領選のプロ対公職経験ゼロのど素人の戦いの様相であった。首相・安倍晋三はニューヨークでクリントンと会談、トランプとは会談しなかったが、先物買いの先見の明があったことになる。
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