ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2016-10-27 06:25
安倍は比への影響力維持を米に忠告せよ
杉浦 正章
政治評論家
浄瑠璃の文句に「どちらへもつく内股膏薬」がある。内股に貼(は)った膏薬のように、あちらについたりこちらについたりして、定見・節操のない者を指すが、どこかの国の大統領と似ている。その合い言葉は「カネのためなら日中へと接近、嫌いな米国必要ない」というところだ。このドゥテルテの田舎の村長のような露骨さに、首相・安倍晋三がどう対応したかだが、総じて親日姿勢を維持させて、成功であった。なぜなら、経済で日本に引きつけ、安保では巡視船供与などで具体性において中国を上回り、「南シナ海の法の支配」に言及させたからだ。会談を受けて安倍が米国に伝えるべきことは、ドゥテルテがなんと言おうと米軍基地の撤収などせず、プレゼンスを継続維持させることであろう。フィリピンを真ん中においた中国対日米の戦略的な綱引きはこれからだ。
70分にわたる小人数の会談で何が話し合われたかだが、発表はなくとも想像はつく。安倍は基本をまず日比関係の確立に置いたのだろう。反米親日家のドゥテルテに米国との関係改善の必要を要求して、中国側に追いやる必要もない。ドゥテルテが中国で「軍事的にも経済的にも米国と決別する」と言明したのには耳を疑ったが、日本での発言で確信犯的な「反米左翼」の体質が分かった。ドゥテルテは「今後2年で外国軍の支配を受けないよう、出て行ってほしいと考えている」と米軍基地撤去を明言したのだ。この度しがたいドゥテルテに安倍は、おそらく米比関係を取り持つようなことはしなかったであろう。せっかくの訪日がぶちこわしになっては元も子もない。しかし、安倍はドゥテルテの真意が本当に、米国を追い出してまで中国と安保上の結びつきを強めるようなところにあるかどうかを見極めようとしたに違いない。これも推測だが、ドゥテルテはそこまで考えていないことが分かった可能性がある。ドゥテルテは、アメリカとの外交関係について「断ち切るわけではない」と説明したらしい。会談後ドゥテルテは文書を読んで「南シナ海問題を含め民主主義と法の支配に基づいた平和的解決を目指す」と言明している。これは常設仲裁裁判所が南シナ海の領有権問題でフィリピン勝利の裁定を下した論理構成と合致する。
外相・岸田文男は前日の会談で東シナ海における中国の進出にも言及したに違いない。10月26日の衆参議員らへの講演でドゥテルテは、「中国が大きくなってくれば、米国との間で衝突が起きる可能性はある」と述べ、「われわれは中国に対して同じ立場にあるのだから、手を合わせなければならない」と連携を述べている。フィリピン沖のスカボロー礁が埋め立てられて軍事基地化されれば、パラセル諸島とスプラトリー諸島と結ぶ逆正三角形ができて、中国の南シナ海制覇が完成するのだ。ドゥテルテはその辺の事情が分かり始めたから「同じ立場」と発言したのだ。安倍との会談でも同様の見解を示した可能性が十分あり得る。ドゥテルテは就任してまだ3か月である。それも日本の招待に中国が負けじと先んじて招待をするという慌ただしさの中での外交展開である。まだ外交になれていないど素人が直感だけが頼りで、外交を展開していると思った方が分かりやすい。その発言に外交政策の裏付けがないのだ。「時が来れば私は日本側に立つ」などという露骨な発言は外交慣例としてはあり得ない。だからその場に応じてころころと発言が変化して、外交常識を持つ相手を戸惑わせるのであろう。
アキノの例を挙げれば、アキノは就任早々は反米だったのだ。それが親米路線に方向転換したのは、約8か月後だ。ドゥテルテの反米感情は根強いものがあるが、今後の対応によっては、寝返りドゥテルテをまた寝返らせることも不可能ではない。中国が2兆5000億もの援助を約束しても、具体性がなく空証文に終わる可能性もある。実施しても紐付き援助で、中国企業を利するものだろう。逆に日本は貿易額でも対比投資でもトップを切っており、米中を大きく凌駕している。おまけにドゥテルテは根っからの親日家である。安倍が今回のように親身になって相談に乗れば、ドゥテルテは習近平より安倍に付く。個人的関係においては有利なのだ。気になるのは米国が早まって、1991年からの基地撤退のような大誤算をすることだ。以後、中国は「しめた」とばかりに南シナ海制覇の動きに出た。このため、米比両国は2016年3月、米軍がフィリピン国内の5基地を利用する協定を結んだ。徐々に米軍のプレゼンスが復活しようとする矢先の反米大統領の誕生だ。安倍は、何が何でも米国がプレゼンスを縮小することがないよう、オバマやクリントンに忠告すべきであろう。ドゥテルテは中国とつきあえばつきあうほど、小国を見下すその独善性に気づくだろう。やがては、日本を軸にして米比関係を好転させる可能性があるのだ。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム