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2016-11-11 04:53
安倍はTPPで「トランプ教育」の先鞭(せんべん)をつけよ
杉浦 正章
政治評論家
たしかに世の中には道理のわかる者もいるが 、わからない者もいる。「盲千人目明き千人」とはよく言ったものだ。前者はトランプと野党だ。これに古来まれな野党による“対米追随路線”が加わっては、どうしようもない。環太平洋経済連携協定(TPP)の衆院本会議採決で民主党代表・蓮舫が「TPPがどうなるか分からないのに、強行採決するのは恥の上塗り」、幹事長・野田佳彦も「新大統領にけんかを売ることになりかねない。世界の笑いものになる」と発言。共産党委員長・志位和夫に至っては「地球儀俯瞰(ふかん)外交と言いながら、世界の動きが全く見えていない」と首相・安倍晋三を“侮辱”した。筆者から言わせれば、これらの発言こそが「恥の上塗り」「世界の笑いもの」「全く見えていない」 そのものだ。TPPの採決で批准のめどが立ったことは、日本が世界の自由貿易体制推進の“旗頭”となったことを意味する。野党はそれが今後の重要な展開を内包していることが分かっていない。安倍は対米追随から離脱して、信念に基づいた行動をしたのだ。これはトランプに対する大きなプレッシャーにもなる。
もちろんTPPの前途は定かではない。トランプが「就任初日にTPPから離脱する」と発言すれば、米上院共和党トップの院内総務マコネルは11月9日の記者会見で、TPPについて「年末の議会で採決することは、まずない」と述べた。これはオバマが極秘裏に安倍に約束した「任期中の処理」がきわめて難しくなったことを意味する。だからといって、日本までが批准を断念したらどうなるか。自由貿易の火は消え、世界は保護主義の波に覆われ、世界経済に甚大な影響が生じるのだ。そういう寸前暗黒の海原に日本は灯台の灯をともしたのだ。民進党は世界の経済史を勉強し直した方がよい。自由貿易の推進役が必ずしも米国ではないことが分かる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は日本の提唱によって結成されたものである。APECは開かれた地域協力によって経済のブロック化を抑え、域内の貿易・投資の自由化を通じて、多角的自由貿易体制を維持・発展させてきた。アメリカは当初は関係していない。
「アジア太平洋」という概念が最初に打ち出されたのは、日本財界の雄として国際的な民間経済外交に先鞭をつけた永野重雄が1967年に発足させた太平洋経済委員会である。これに基づき1978年、時の首相大平正芳が就任演説で「環太平洋連帯構想」を打ち出したのだ。これにオーストラリア首相のマルコム・フレイザーが賛同、両者で推進した結果、APECへと発展したのだ。アメリカは「日本に追随」して後から付いてきたのだ。従って気まぐれトランプが離脱すると言ったからといって、これを金科玉条として反対することは、米国に対する盲目の追随でしかない。だいいち最初に交渉を決断したのは野田自身であることを忘れてはいけない。ご都合主義は野党の特徴だが、これほど手前勝手な反対論は聞いたことがない。
トランプが自らの愚かなる主張が米国経済を直撃するものであることに気付くまで、待つ必要もない。安倍はアメリカ抜きで経済圏を形成してゆけばよいのだ。TPPのバリエーションはいくらでもある。昨日も書いたが、安倍のイニシアチブでTPPを米国抜きで見切り発車させるのも一方法だ。日米の存在が不可欠としている規約などは修正すればよい。TPPを踏み台としてより大きな自由貿易圏へと発展させることも可能だ。もともと日本は、将来的な構想として、TPPとRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指している。まさに世界最大の経済圏である。中国と日本を中心に進められているRCEPは、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6カ国がASEANの10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)との自由貿易協定を束ねるものだ。交渉が難航し、年内の合意は断念したが、なお結成努力は続けられている。TPPは米国抜きでも踏み台にはなり得るのだ。
トランプは自らが「貿易戦争」を主張していることに気付いていない。米国が保護主義に転換し、高関税政策を導入し、これに各国が対抗措置を取れば、世界は完全に貿易戦争のパターンとなる。これによって「米国経済は2019年にマイナス成長に陥り、約480万人の雇用を失う」と指摘するシンクタンクもある。TPP採決は貿易や投資の自由化で経済を活性化させ、世界の経済成長を取り戻すという崇高な意味がある。野党が主張するように「間違っている」のではない。安倍は17日のトランプとの会談で堂々とTPPを持ち出し、その必要性をじゅんじゅんと分かりやすく説く必要がある。TPPには海洋進出を繰り返す中国への包囲網を結成するという安保上の意義もある。安倍はこれによって「トランプ教育」の先鞭(せんべん)をつけるべきだ。
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