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2016-11-16 06:03
安倍、トランプと同盟重視・自由貿易維持を確認へ
杉浦 正章
政治評論家
安倍首相は参院でトランプの変わり身の速さを「君子は豹変すだ。国や国民のために、メンツを捨てて判断することが、指導者に求められる姿勢だ」と表現した。確かにトランプは当選以来がらりと現実路線に転換し始めている。安倍はそのトランプと主要国首脳ではおそらく初めて、11月17日に会談する。会談がどうなるかはまだ推測しかできないが、首相の国会答弁とトランプの現実路線転換を根拠にすれば、おそらく安保問題では日米同盟の重要性を確認、対中包囲戦略は維持の方向となろう。経済では少なくとも自由貿易体制維持の方向を確認できるだろう。関連して環太平洋経済連携協定(TPP)の扱いが焦点になるが、トランプ側は柔軟ともとれる兆しを見せ始めている。当選後「就任初日にTPPから離脱する」と言う表現は影を潜めた。
気をつけなければならないのは、安倍がトランプと会談する最初の首脳となれば、会談内容は米メディアも注目し、報道されるだろう。しかし米国社会は分断状態にあり、日系人までが「国に帰れ」と迫害を受けるケースも生じている。安倍が送った祝辞のように、トランプをベタ褒めすれば、日系人や米国駐在の日本人がとばっちりを受けかねない情勢であり、会談内容の発表は慎重にした方がよい。トランプが「君子」かどうかは別として、大きく現実路線にかじを切りつつある。まるで有権者を裏切る“選挙サギ”のようである。まず選挙中の「不法移民は全員送還」は「犯罪歴のあるものやギャングは国外退去。残る移民はすごくいい人」に、「メキシコ国境に壁」は「フェンスも認める」に、「中国製品の関税45%」は「米中関係はウインウインが実現できる。あなた(習近平)との関係を強化したい」に、「日本や韓国が核兵器を持つことを容認」は「私はそんなことを言ったことはない。言ったなどというのは不誠実だ」などといった具合だ。
就任後最初に離脱するといったTPPが焦点だが、ホームページから「離脱」の文字を削除した。政権移行チームが発表した政権公約概要にはTPPは盛り込まれていない。これらの“兆し”が、方向転換を意味するものか、妥協策かは、まだ不明だが、少なくとも日本の学者や三流コメンテーターが口をそろえて「もう駄目」と言っている状態ではない。安倍も「たいへん厳しい状況だが、まだ終わっているわけではない」と述べ、なお日本主導の発効へと努力する方針だ。TPP加盟国の“巻き返し”も始まっている。まず、ニュージランドが議会で批准した。オーストラリア首相のターンブルが、電話でトランプに「TPPは、アメリカの国益につながる」と再考を促した。メキシコのように発効要件を変更して「米国抜きの発効」論も出始めている。ペルーには「中国、ロシアを含めた協定」を主張する動きがある。少なくとも加盟国は保護貿易主義の排除では一致しつつある。安倍としてはペルーでのASEAN首脳会議の際にTPP加盟国首脳会合を開催、オバマとともに大きな流れをTPP再構築に向けて取り戻す方針だ。こうした中で、安倍が対トランプでどう動くかがTPP発効に向けての最大の焦点となるが、11月15日のTPP特別委の発言を見れば、かなりスタンスが明確となっている。日本維新の会石井章が巧みな質問で内容を引き出している。
まず安倍は、会談後公表するかどうかは別として、TPPでトランプを説得する姿勢だ。「TPPは米国にとっても極めて有意義との理解が広がることを期待する。ぜひ米国にも批准してほしい」と述べ、トランプを説得する意向を示した。さらに安倍は基本戦略として中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)へと重心が移行することに懸念を示した。日本はもともと将来的な構想として、TPPとRCEPとを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指しているが、TPPが挫折すればその主導権を中国に取られかねない懸念がある。安倍は「民主主義を共有する国が決めたTPPがスタンダードになることが望ましい。そうなならなければ重心がRCEPに移行し、果たしてTPPで決めた国営企業制約のルールなどが入るかどうか。基本的にはTPPが発効してRCEP、FTAAPへと発展することが望ましい」と発言したのだ。
この基本的構図は、TPPでのトランプ取り込みの基本戦略となる可能性があるのだ。トランプは複雑な事情は知らないだろうが、安倍は構図をまず植え付けて、中国の出方をけん制する必要があるのだ。トランプが中国寄りに米国の路線を転換させてしまえば、TPPのみならず東・南シナ海での日米共同歩調の安全保障体制にも大きな影響が生じ、中国は事実上海洋進出を成し遂げてしまう危険がある。従って安倍はトランプとも日米同盟の重要性を確認して、対中包囲網の継続を推進するよう説得することになろう。トランプも同盟の重要性は理解する方向であろう。その意味で安倍がトランプと習近平より先に会談することは大きな意義がある。最初から強調しているようにジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。外交を知らないレーガンも、見事な外交を展開した。ホワイトハウスとはどんな人間の特異性も制御し、全体のバランスを重視するフツーの大統領に“育成”する特異の場所なのだ。
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