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2016-12-13 06:55
「2島先行」にむけて「経済共同活動」確認か
杉浦 正章
政治評論家
北方領土交渉の報道は、複雑に絡み合った糸をどう解きほぐすかにかかっており、そのためには極秘裏に進められている交渉について政府首脳が漏らす「言葉」を鍵として、扉を開くしかない、首相・安倍晋三は12月12日に「北方領土問題の解決に向け一歩でも前進させるため、全力を尽くしたい。私の世代でこの問題に終止符を打つ決意で首脳会談に臨みたい」と発言した。新しいのは「私の世代でこの問題に終止符を打つ決意」であろう。この言葉のうち「私の世代」が意味するものは、おそらく「自分の在任中」の意味であろう。ということは、15日の長門会談での最終決着はないことがまず鮮明になる。
そこで安倍がいだくスタンスだが、森喜朗が2001年に進めようとした2島先行返還のスタンスに近いような気がする。森は、1956年の日ソ共同宣言にのっとって、まず歯舞・色丹の2党返還の手続きを進め、国後・択捉は議論を継続する線でまとめようとしたが、国内政局で退陣し、実現しなかった。1か月前安倍は森に「2001年の会談の記録を全部読みました。よく理解しました」と告げている。これが意味するものは、安倍が「2島先行」に傾斜しているということだ。問題は、2島先行返還に如何にして結びつけるかにかかっている。そのとっかかりとなる構想が、プーチンがリマの会談で持ち出した「北方領土での共同経済活動」構想だ。北方領土での「共同経済活動」とは、日露の信頼関係醸成のための水産加工など水産業やインフラ整備等の合弁事業を進めるプランだ。安倍は返答しなかったといわれるが、その理由は、北方領土が現状のままで日本がその共同経済活動に参画すれば、ロシアの主権を認めることにもつながりかねないからである。
その後日本側はシベリアでの共同事業などを主張してきたが、最近になって北方4島での共同事業を認めるという方向に転換してきたようだ。時事の報道によると、日ロ両政府が、北方領土での共同経済活動をめぐるルール作りを目指し、最終調整に入ったという。その方針転換の重要ポイントは、問題をクリアするため、1998年にロシアと結んだ北方四島周辺水域での漁業枠組み協定だという。同協定はロシアが日本の操業を認める一方、「協定がいずれの政府の立場・見解をも害するものとみなしてはならない」と規定し、管轄権の問題は棚上げしたのである。今回の場合これと類似の表現によって、4島の主権問題を棚上げにしてしまえば、共同経済活動が可能となるわけだ。
うまい落としどころだが、4島での実施を主張する日本と、歯舞・色丹に限るロシアとの間で調整が続いている模様だ。これは、既成事実先行で日本の存在を4島に広げてゆき、地歩を築いて、将来の返還の実現を迫るもので、“熟柿作戦”の一つとも言えよう。しかし、ロシア側の「返さずぶったくり」、あるいは「食い逃げ」の可能性は依然否定出来ない。プーチンは世界戦略上の立場から領土交渉で強気に出る可能性がある。というのも、ロシアにとって有利な状況が生じつつあるからである。G7を、日本を突破口にして切り崩す作戦の重要性が薄れてきているからだ。その1つは、米国にトランプ政権が誕生することだ。米露関係はオバマとプーチンの関係が冷戦後最悪の状況に陥っていたが、トランプ登場で改善の兆しが出てきている。2つは、ロシア経済が大きく依存する原油価格が上昇に転じ、12日も4万円を上回って、今年の最高値を更新している。経済好転の兆しがようやく見え始めたのである。これは経済での日本への依存度が弱まることを意味する。
加えて、北方4島のうち国後・択捉の戦略的価値の増大である。両島間の国後水道は太平洋とオホーツク海を結ぶ軍事戦略上の要衝だ。その上両島近海は、中国軍艦の北極海ルートでヨーロッパと結ぶ通過地点となりつつあり、ロシア軍が国後・択捉両島で地対艦ミサイル「バル」と「バスチオン」を配備した最大の理由が、これだ。従って、国後・択捉が返ってくることは、まずあり得ない。主権を認めることもあり得ない。言うまでもなく、日本は幻想を抱かない方がよい。こうみてくると、長門会談は依然とっかかりを模索するものになりそうであり、安倍のいう「一歩前進」が基本になるような気がする。もちろん平和条約交渉の開始などへと踏み込めれば、一応前向きの印象を得られることになるが、決定打とは言えまい。1956年宣言の核心である「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」に回帰して、平和条約交渉を先行させることも、安倍のポジションとして考えられないわけではない。
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