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2007-04-11 12:36
アーミテージ報告II に見る米国の対中戦略
坂本正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
2007年2月、「日米同盟―2020年のアジアを正しく導く」(以下アーミテージ報告II)が公表された。同報告は21世紀の世界秩序はアジア情勢が鍵だとし、アジアは中・印二大強国の同時勃興、日本の再醒、朝鮮半島統一、台湾問題、民族主義の興隆など極めて不安定と喝破する。最大の注目は地域安定には日米中の協力が不可欠であり、日米同盟は良好な3国関係を促進すべしとの点である。
2000年のアーミテージ報告Iは日米同盟は米英同盟のようになれ(それで十分)とした。今回の報告は、米中共同支配では、アジアの多くの友邦を外す、日米同盟だけでは、中国との関係から、中立か、中国との連携を選ぶ国が多いので、米中日の協力が不可欠だとする。日米同盟は、インド、豪州、シンガポールやベトナム、NZなども引き入れて連携し、中国とは、同意できない点を明らかにしながら、協力出来る分野を拡大することが重要だとする。
アーミテージ報告IIは極めて中国を重視しているが、その理由の第一は中国の変化である。2000年報告時の中国は冷戦・孤立主義の残嵯を引きずり、責任ある大国にはほど遠かった。しかし、2007年の中国は、外資を活用し、高度成長し、アジアのFTAを主導し、貿易・金融大国として、世界に援助をばらまき、全方位外交を展開している。米国の戦略は中国に軍事関与しながらも、世界経済への依存に引き込むものであるが、中国がWTOに加盟し、世界の市場と資源を必要とする状況は成功である。しかし、中国の発展は予想以上に急激であり、胡錦濤の米中による世界共同管理の提案には困惑である。
第2に21世紀初頭の中国の変化は、アメリカが中東の罠にある間に起こった。高度成長と急激な軍事力の向上の結果、中国は急激に大国となり、ロシアと手を結び、上海条約機構や東アジア共同体で米国排除の動きがあるが、中国に6者会談など委ねるなど、米国は中国依存を深めている。米国の軍事力の卓越性は続いているが、今後も、イラク、イランなど中東問題が続くようだと、アジアまでは手が回らない。中国の軍事力充実は気になるが、当面は中国に責任大国を期待する以外に手がないとはアーミテ-ジ報告参加者の言である。
しかし、アーミテージ報告は2020年に中国が、軍事大国として、石油獲得のために海外進出し、ならず者国家と親密な関係を持ち、一党独裁の重商主義、熱狂的愛国主義の大国になる可能性を否定しない。筆者は、2010年代、アメリカの中東介入が続き、中国の軍事力整備が進んだ段階で、中国がアメリカの意図を誤信して、台湾などで問題の起こるシナリオを懸念する。
第3に、報告は、日本は憲法改正、防衛力の充実、海外派遣の法整備を行い、その国際的役割を充実すべしとする。次に、日米自由貿易協定を締結すべしとするのは重要である。更に、日米は安全保障、軍事協力を強化し、アジア友好国との対話を深めるべしとする。何れも賛成であるが、安倍首相の訪米を控え、アーミテージ報告との関連で、次の提言をしたい。
第1は、日米首脳は、対中政策についてあらゆる面の戦略対話をすべきである。第2に、米国が中東の罠から早く脱し、アジアへの関与を強化すべきと訴えることである。第3に、米国が中東への重い関与を脱出できない場合に備え、日本の国防力整備に、米国の十分の協力を要請することである。第4に、憲法改正、集団自衛権の確立など、日本自身の体制整備が重要だということである。
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