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2017-02-04 06:03
マチス、中国・北の「誤算」回避を狙う
杉浦 正章
政治評論家
日米関係の急所である安全保障問題が、マッチポンプのごとき米国の対応急転で、オバマ政権の方針継承で落ち着いた。首相・安倍晋三にとっては、米国防相マチスとの会談は、2月10日の首脳会談に向けて、大きなブレークスルーとなる。まず安保で合意しなければ、経済も通商も進まないからだ。トランプにしてみれば、安保に無知なるが故に、核の傘の否定と米軍撤退示唆という高値を吹きかけ、値引きして元のさやに収めただけのことだ。期せずしてか、それとも狙ったか、一銭もかけずに日本に恩を売る形となった。だから政府はもちろん、マスコミも、「尖閣、日米安保適用」などと諸手を挙げて喜ぶ話ではあるまい。それでは人がよすぎる。もっとも、より重要な側面がある。それは中国と北朝鮮の誤算による武力行使を未然に防ぐという意味だ。極東に「力の空白」ができたという誤算をさせないことが必要なのだ。国防総省は全世界を見渡して、トランプ発言修正の優先度を北大西洋条約機構(NATO)でなく、日米同盟に置く緊急性があったのだ。加えて日本の軍事大国化を未然に防止する意味合いも大きい。
日米合意は、要約すれば、(1)日米が同盟の強化を確認、(2)マティスは、対日防衛義務や核の傘による拡大抑止提供などを明言、(3)マティスは尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲であると再確認、(4)北朝鮮の核・ミサイル開発への対応では、日米、日米韓の安全保障協力が重要との認識で一致、といったところだろう。国防長官が政権発足2週間で来日した例はない。最近ではオバマ時代にゲーツが9か月後、ブッシュ時代にラムズフェルドが2年10か月後といった具合だ。政府筋によると、来日を早めたのは極東情勢に緊急性があったからだ。同筋はマチスが「日米関係は試すまでもない。米国の政権移行期に乗じて、中国や北がつけ込んでくるのを防ぐためだ」と漏らしたと言うが、その通りだろう。事実、北はICBM の実験を行おうとしており、中国は尖閣への接近、領海侵犯、空母による示威行動を繰り返している。
もともと米国は尖閣問題でのコミットメントを明言してこなかったが、オバマ政権になってから、中国は首相・野田佳彦の尖閣国有化発言への反発とオバマの安保政策の“やわ”なところに目を付けてか、公船の尖閣接近が頻繁となった。この結果、安保条約5条の適用を国務、国防両相も、オバマ自身も、2014年になって初めて明言せざるを得なくなった経緯がある。尖閣を失うと言うことは米国の極東戦略の拠点を失うに等しい象徴性があるのであり、トランプ政権も継承せざるを得ないのは火を見るより明らかなことであった。マチスによるトランプ発言修正のポイントは「日米がともに直面しているさまざまな課題、そして北朝鮮の挑発などにも直面し、私としては1年前、5年前と同じく、日米安全保障条約第5条が本当に重要なものだということを、とにかく明確にしたいと思った。それはまた5年先、10年先においても変わることはないだろう」と述べた点だろう。そこには長期にわたり日米協調で極東、ひいては南シナ海から中東にかけての安全保障の「礎」を確保したいという思惑がある。トランプの言うように、駐留経費を理由に米軍を撤退させ、日本の核武装が進めば、この基本戦略が成り立たなくなるのだ。とりわけ、日本の核武装は米国にとって極東に軍事大国が出現することを意味しており、米国の基本戦略に甚大な影響をもたらす。だからこそ「5年先、10年先」においても変えたくないのであろう。
トランプの「日本の防衛を続けるにしても、公平な支払いが必要」という、駐留米軍経費の増額要求については、マチスは言及しなかったといわれる。訪日の狙いは、トランプ発言への日本の懸念を掌握するところにあり、米国からの具体的要求は避けたい、という気持ちがあったものとみられる。しかし、今後米国が駐留経費の負担像を要求してくるかと言えば、まずないだろう。年間7600億円の分担額と74.5%の負担割合は、世界の中でもぬきんでており、要求の根拠に欠けるからだ。もっとも日本の軍事費は世界第8位だが、対GDPの防衛費の割合は1%で、世界で102位だ。この現状を今後米側が指摘してくれば、弱いところを突かれることになる。今後トランプが“禁じ手”の貿易と安保を両天秤にかけて、ディールを求める可能性は依然残っていると見なければなるまい。
懸案の普天間基地の辺野古移転についても、トランプ流理論でいけば「不要」と言うことになるが、マティスは方針を変えなかった。「解決策は二つしかない。一つは辺野古、もう一つも辺野古だ」と明言している。これも、米戦略の重要な要(かなめ)としての辺野古を失いたくないのであり、当然の話だ。こうしたマチスの姿勢をトランプが支持するかどうかだが、トランプは就任後もマティスを「専門家」として信頼する発言をしており、おそらく極東安保の大きな俯瞰図を変更する可能性はないだろう。いずれにせよ、安倍は切れ者マティスを“味方”に付けた感じが濃厚であり、会談そのものは成功と見るべきであろう。
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