安全保障とは別の問題であるが、トランプ氏の唱える政策は、ロシアにとって不都合な側面もある。それは、エネルギー政策である。トランプ政権のエネルギー政策は自前の積極的なエネルギー開発がポイントだ。国内の産業育成と雇用増大のためである。トランプ氏は、地球温暖化やそれを阻止するためのパリ協定などは問題とせず、もっぱら石油、ガス、石炭などの生産を積極化する姿勢を示している。もしそれを本気で実行すれば、多少上向いてきた国際的な油価の再下落を招き、これは露経済にとって打撃になる。つまり、トランプ政策はプーチン政権にとって打撃となる側面もあるのだ。石油輸出国機構(OPEC)は昨年11月末に減産を決めた。それまでの8年間は、OPEC各国の利害が調整できず、サウジアラビアは高油価でシェール石油・ガスの開発が進むことを警戒した。また近年はイラク核合意の成立(2015.7)による制裁緩和により、イランがエネルギー市場に復帰するのをサウジアラビアが嫌い、減産合意は成立しなかったのである。この状況下での、トランプ政権の「米国第一エネルギー計画(An America First Energy Plan)の登場である。トランプ氏はエネルギー価格引き上げをもたらす炭素系エネルギー税には全面的に反対し、シェール石油・ガス、石炭、原子力などのエネルギー生産を支持している。トランプ政権がエネルギー公約をどれだけ実行するか不明だが、ロシアにとっては相当大きな不安材料だ。