ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2017-02-08 03:10
日米ゴルフ会談は極東安保の基軸となる
杉浦 正章
政治評論家
民放のコメンテーターなる者どもが口をそろえて首相・安倍晋三のトランプとのゴルフ会談を批判しているが、方向音痴で浅薄だ。大状況を見失っている。日米ゴルフ会談は、祖父岸信介がアイゼンハワーと行って以来の快挙だ。岸はゴルフ会談で日米安保条約改訂の基礎を築いたのだ。日本を取り巻く安保情勢を見るがよい。国防長官マティスが就任早々日本に駆けつけたのは、中国と北朝鮮による極東の危機が、それだけ切迫していることを意味する。安倍が、たとえ短期で終わりそうな不人気な大統領でも接触を深めるのは、日米同盟を最重視するからにほかならない。たとえゴルフでも、接触時間が長いということは肝胆相照らす仲になり得るということであり、安保上の問題が発生したときに、この個人的な関係が役立つことは今後の歴史が証明するだろう。ゴルフ会談批判は、中東7か国の移民受け入れ問題批判と絡めたものが多いが、筆者が前から述べているように、移民問題は受け入れている西欧諸国と米国に限定された問題である。おまけに米国内で訴訟の応酬が続いていることが物語るように国内問題である。国内問題を一国の首相が批判すれば内政干渉になる。コメンテーターらはシリア難民を日本が受け入れよというのか。冗談ではない。中東の権益に染まる米欧と日本では、自ずと対応が異なってしかるべきなのだ。
そこでゴルフ会談だが、安倍が最初の会談でゴルフクラブを贈呈したことが端緒になっているのだろう。四面楚歌のトランプにとっては「安倍はういやつ」との感情が芽生えてもおかしくない。安倍から働きかけたようなことをトランプは言っているが、そうではあるまい。しかしこればかりは鐘が鳴ったか撞木がなったかの類いかもしれない。ゴルフクラブ贈呈には“布石”があったであろうからだ。官房長官菅義偉も「最初に会談したときに安倍総理大臣からゴルフクラブをプレゼントした。そういう中で『今度やりましょう』ということになった」と説明している。安倍は、首脳会談のあと、トランプとともにアメリカの大統領専用機・エアフォース・ワンで、大統領の別荘があるフロリダを訪れ、ゴルフや夕食会に臨む。1957年の岸訪米の際と酷似している。違うのは、岸のケースがサープライズであったことだ。産経によると、会談後アイクは「午後は予定がありますか?」と尋ね、岸が「別にありませんが…」と答えると、アイクが「それではゴルフをしよう!」と誘ったという。昼食後、岸とアイクらはワシントン郊外の「バーニング・ツリー・カントリークラブ」に向かったが、岸の体格にぴったりあったベン・ホーガン製のゴルフセットも用意されていたという。スコアはアイク74、岸99だった。1ラウンド終えてロッカー室に行くと、アイクは「ここは女人禁制だ。このままシャワーを浴びようじゃないか」と誘い、岸と2人で素っ裸でシャワー室に向かい、汗を流した。アイクは記者団に「大統領や首相になると嫌なやつとも笑いながらテーブルを囲まなければならないが、ゴルフだけは好きな相手とでなければできないものだ」と最大のリップサービスを行ったという。
まさに破格の歓待であった。時は米ソ冷戦時代の初期であり、極東の備えを重視したアイクは、岸の取り込みに好きなゴルフを最大限活用したのだ。これが岸を勇気づけ、不平等条約であった日米安保条約の改訂に乗り出す端緒となった。そこで、孫の安倍が受ける歓待はまずエアフォース1での同乗である。筆者はフォードによる米大統領初来日の際に日本人記者代表として、ただ一人エアフォース1に同乗したが、内部はホワイトハウスの機能がそのままだ。進行方向向かって左の窓際に廊下があり、最後尾に記者や随行が数人座れるスペース。テレックスが所狭しと置かれて作動していたが、いまはIT機器の進歩でおそらく別室にこじんまりとしているだろう。右が大統領の使用する空間だが最前列に会議室、次いで応接室、寝室、浴室などがある。最近写真で内部を見たが、ほとんど変わりはないとみられる。この応接室で安倍は打ち解けた雰囲気の中でトランプと会談するのだろう。
次いでゴルフ会談だ。NHKによると、トランプは5日、アメリカのスポーツ専門ラジオ局とのインタビューに答えて「日米首脳会談のあと、みずからの別荘がある南部フロリダ州で安倍とゴルフを行う」と明らかにした。そのうえで、「すばらしいことだ。ゴルフのほうが昼食以上に親しくなれる」と述べ、ゴルフを通じて安倍と親睦を深めたいという考えを示した。これはアイクの岸に対する対応と酷似している。また、「安倍総理大臣はいいゴルファーか」と質問されたのに対し、トランプは「わからないが、安倍総理大臣がゴルフを好きなことは知っている。私たちはおおいに楽しむだろう。うまいかどうかは問題でなく、安倍総理大臣は私のパートナーになるだろう」と述べた。これはトランプが、娘のイバンカと同様に安倍に好感を抱いていることを物語る。トランプはイバンカから「あなたは安倍晋三首相に従っていればいいのよ」と忠告を受けたとの話を、日米電話会談で安倍に紹介したという。イバンカが安倍を「非常にクレバーな人だ」と評価していたとも話したという。一方安倍は側近に「トランプ大統領は民主的な手続きで選ばれた唯一の同盟国の正当なリーダーであり、敬意を持って対応するのは当然だ」と語っている。菅も「少なくとも選挙によって当選した大統領だ。その大統領と信頼関係を築くことは極めて重要だ。」と意義を強調している。
日米関係を長年観察しているが、最初の首脳会談前にこれほど、大統領と日本の首相の“対話の環境”が整った例を知らない。安倍がいち早く就任前のトランプと会談したことが奏功したことは言うまでもない。加えて最重要の安保上の問題も安倍・マティス会談でおおむね処理された。大統領との個人的な関係樹立と安保での合意は、トランプ政権下での日米緊密化の方向を確かなものにしたと言える。もちろん自動車問題、米国の雇用問題、公共事業への参画の問題など通商経済問題の難問は横たわるが、対話の環境が確立した限り、問題の解決策は「後から貨車でついて来る」くらいのものであろう。言うべきことを言える仲を作るのが先なのである。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム