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2017-02-12 06:27
日米会談は安倍優勢勝ちの様相
杉浦 正章
政治評論家
たった30数分の首脳会談が物語るものは、首相・安倍晋三もトランプも事務当局の作った文書を確認しただけということだろう。従って、アジア太平洋の安全保障では満額回答。貿易経済に関してはトランプがあえて持ち出さず。新たに作る「財務相麻生・副大統領ペンスらの枠組み」への先送りで、激突は回避。欧州、メキシコ、豪州首脳から総スカンで四面楚歌のトランプは、明らかに安倍との会談に活路を求めたことになる。この結果首脳会談から見る限り、6対4で安倍が優勢勝ちした。トランプは選挙中の過激な発言を修正した結果となった。トランプは経済ナショナリズムを封印し、日米安保重視の共和党の伝統的姿勢を踏襲したことになる。今後安倍に“つけ”が回ってくることはあっても、日米関係は好調な滑り出しとなった。といっても、尖閣に安保条約適用など極東安保関係はオバマとの合意が踏襲されただけだ。従って、これはトランプ流の高値をふっかけ、値引きする交渉の術中にあったといえる。しかし、トランプが「我々の軍隊を受け入れてくれる日本国民に感謝したい」と言明したのには驚いた。歴代大統領の基本姿勢は「日本を防衛してやる」であり、トランプ自身も選挙戦で米軍撤退に言及するなど、一番強硬であった。おそらく歴代の安全保障政策を踏襲する国防長官マティスや国務長官ティラーソンが極東情勢の重要さをトランプに進言し、トランプがこれに耳を傾けたことが最大のポイントだろう。
つまり、トランプは「聴く耳」を持っているということだ。加えて、緊迫感を増す極東の情勢への対処は、米国の世界戦略の礎であり、トランプはようやくこれを理解したことを意味する。さらに安保関係で重要な点は、前日トランプが習近平と電話し、「一つの中国」を確認したことだ。ホワイトハウスによると、両首脳の電話会談は「非常に和やか」なもので、幅広い話題について長時間にわたり意見交換したという。トランプは昨年12月、台湾総統の蔡英文と異例の電話会談を行い、米メディアに対して「一つの中国」政策を疑問視する発言をしたが、これを明確に修正したことになる。これは歴代米政権が維持してきた「一つの中国」政策に戻ったことになり、米中関係ののどに刺さったとげは、いとも簡単に抜いてしまった。おそらくキッシンジャーが影響しているのだろう。ということは、日本にとってはニクソンの悪夢「日本頭越しの米中接近」がいつ起きるか分からないことを意味している。警戒する必要がある。トランプとしては安倍と安保上の接近をすることで、中国が「誤解」して暴発することを避けたとも言える。こうしてトランプは選挙でのドラスティックな発言から現実路線へと舵を切りつつあるということになる。
一方、貿易経済問題は経済閣僚の議会承認が遅れており、本格的に動き出すのはまだ先であろう。安倍の提案した「枠組み」は、その意味でトランプの独断専行を阻止することでもきわめて有効な一打であった。「枠組み」は、誰も気付いていないが、1961年の池田内閣時に発足した日米貿易経済合同委員会と酷似する構想だ。両国閣僚による同委員会は、佐藤内閣では日米繊維交渉が最大の議題になった。当時の通産相田中角栄が、アメリカの主張に譲歩し、繊維業者の機織り機を政府のカネで買い上げて廃棄するという奇策に出てまとめた。その後休止状態にある。「枠組み」では自動車問題、金融為替問題、インフラへの事業協力などを話し合うことになる。日本側としては時間稼ぎになるが、なかなか安倍の目指す「日米の相互利益の追及」というわけにもいくまい。会談後トランプが「貿易関係では、自由で公平を重視し、日米両国が恩恵を受けなければならない」と発言したが、これはかつての赤裸々な保護貿易主義からの明らかなる転換を意味する。今次会談では、円安批判も出ないし、自動車輸出への批判も出なかった。ディールの先送りで安倍、トランプ双方の利益が一致した。安倍にしてみれば時間を稼げるし、環太平洋経済連携協定(TPP)にしても、トランプを翻意させるよう根回しが可能となる。一方で、トランプは、日米激突の構図を避けることにより、世界的な孤立無援の状況に突破口を開くことができるのだ。今年中と決まったトランプ来日までにめどを付けるよう迫られるかもしれない。
こうした中で米国のマスコミは、トランプに“荷担”した安倍にかんかんだ。中東・アフリカ7カ国の国民の入国を一時禁止した大統領令ついて安倍は「入国管理や難民政策は内政問題なのでコメントを差し控えたい」などと突っぱねたのが気に入らなかったとみえる。朝日によると、NBCニュースの政治担当ディレクター、チャック・トッドはツイッターで「メイ英首相よりもさらに、日本の安倍首相はトランプ大統領に取り入ろうとしている」と投稿。米タイム誌(電子版)は「首相は記者会見で大げさに大統領をほめた」などと皮肉った。ニュース専門局MSNBCのアナリスト、デビッド・コーンもツイッターで「こんなに大統領におべっかを使う外国の首脳は見たことがない」と述べている。これは坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの類いで、他国の首相に対して失礼千万であり、「極東の緊迫した情勢下での日米蜜月は米国の利益に直結する」という大局など全く頭に入っていない。ホワイトハウス記者団も質が落ちたものだ。一国の首相のフロリダの滞在費まで問題にした。問題が提起された背景には、トランプの不動産ビジネスが大統領職と利益相反を起こさないかとの懸念がある。米メディア記者は2月8日日の大統領報道官スパイサーの定例会見で追及したが、ホワイトハウス側は「安倍夫妻の滞在費はトランプが負担し、日本側が支払うことはない」との考えを示した。一国の首相の滞在費まで問題として追及するとは、あきれかえる。「大局を見よ」といいたい。少なくとも日本の記者は、これほど失礼な発言は恥ずかしくて出来ない。まるで何でも扇情的に報道する米国伝統のイエロー・ジャーナリズムの復活のようだ。
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