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2017-03-14 06:00
韓国が羅針盤なしの漂流を始めた
杉浦 正章
政治評論家
国家にも踏んだり蹴ったりの「女(め)どき」があるのだろう。今の韓国がそれだ。韓国は自らが招いていることとはいえ、羅針盤なしの漂流段階に入った。取り巻く環境がそうさせている。中国は戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐって露骨な経済制裁を仕掛け、北朝鮮は狂ったかのごとくミサイルを打ち上げる。次期大統領の最有力候補は、親北朝鮮で有名であり、THAAD配備や対日軍事情報包括的保全協定(GSOMIA)に真っ向から反対だ。当選して公約を実行すれば日米との離反へと舵を切りかねない。そうすれば極東での完全孤立だ。ささやかれ始めたのは3度目の軍事クーデター説だ。まだ海のものとも山のものともつかないが、これまでも政権の左傾化時にはちょくちょく台頭しているが今回もその例に漏れない。
朴槿恵の就任早々は習近平が訪韓するは、自らが訪中して反日軍事パレードに参列するはの蜜月ぶりを誇示していたものだが、その後、路線を修正して、日韓慰安婦合意などに至った。しかし米国のTHAAD配備は中韓関係を180度暗転させた。中国の環球時報はその実態を一面コラムで見事に描いている。「韓国との長期的な対立に入る準備を」と題した記事は「我々の報復は敵軍1000人を殺し、自軍800人を失うやり方ではなく、韓国だけに大きな損害を与える分野で、中国の消費者が主力軍となり、韓国を本当に苦しめる方式でなければならない」と主張しているのだ。そのやり方は韓国商品を買わず、韓国旅行に出かけず、韓国ドラマを見るなと国民に求めるものだ。真綿で首をじわじわと締め付けているのだ。まさに共産党一党独裁国家でなければできない制裁だ。韓国の対中輸出額は約14兆円に上り、対米輸出の2倍、対日輸出額の約5倍となっている。2016年に韓国を訪れた外国人観光客は約1700万人で、うち中国人はほぼ半分に当たる約800万人にも上る。旅行客が激減し、輸出にセーブをかけられては、ただでさえ悪化の一途をたどる韓国経済への影響は甚大とみなければなるまい。
このため韓国紙の多くが、2012年の尖閣漁船衝突事件後に中国がレアアース(希土類)の輸出を規制した例を挙げ、日本が沈着な対応で乗り切ったことを教訓にすべきだとしている。日本が対中投資を激減させるなど対抗措置をとったことなどを指している。ハンギョレ新聞は「韓国は日本のように中国の攻勢を耐え忍ぶ体力と反撃手段に欠け、そして外交力が相対的に弱い」と悲観論を述べている。しかし右寄りの東亜日報は「中国のTHAAD報復に屈服すれば国じゃない」との社説で「中国がカネの力で韓米同盟を揺さぶることができると考えるなら錯覚だ。中国がTHAAD問題で韓国をテストしようとすれば、中国も代価を払わなければならないだろう」と開き直っている。こうして朴槿恵の作った中韓蜜月ムードは、韓国が袖にされてあえなく終わったが、問題は5月上旬までに行われる大統領選挙で親北朝鮮のばりばりである「共に民主党」前代表文在寅が大統領に選ばれそうなことである。世論調査ではダントツの30%を獲得しており、「共に民主党」が候補を統一すれば圧倒的な強みを見せるとみられている。これに対して保守党のていたらくは今のところ見る影もない状況だ。そこで文在寅がこれまでに唱えてきた選挙公約を見れば驚くほどの反米、反日路線であることが分かる。
韓国紙などによると、まず米国が配備を進めているTHAADに関しては「朴槿恵大統領の職務が停止している中でTHAAD配備を強行することは適切でない」と反対。GSOMIAについても、「協定を通じてどのような情報が共有されるかを確認し、再検討する必要がある」と主張している。また一昨年末の慰安婦合意について「正当性は認めにくい」とし、「日本の法的責任と謝罪を明確にするため、新たな協議が必要だ」と主張している。文在寅に関しては盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、国連北朝鮮人権決議案について北朝鮮に意見を求めた「内通」疑惑が浮上したのは有名だ。これに加えて文在寅は「当選したら米国よりもまず北に行く」とも発言している。まるで朝鮮半島を「赤化統一」(昔懐かしい言葉である)しかねない時代錯誤の言動である。反米、反日を絵に描いたような人物だが、問題は実際に行動に移せるかどうかだ。自らの路線を進めるとすれば、まず中国との“和解”が必要だが、中国は対米関係を考慮して下手な手出しはしない可能性が強い。あまりにおいしい話にはかえって乗りにくいものだ。おまけにただでさえ手を焼いている北の金正恩がますます増長して、統一への主導権を握りかねない。もちろん在韓米軍や米国からの圧力も相当のものが予想される。その路線が意味するものは、韓国が極東において完全に孤立する亡国路線であることでもある。従って実行に移すことは困難とみられるが、陰に陽に北との融和策に出る可能性は否定出来まい。
こうしたなかで保守運動の指導者でジャーナリストの趙甲済が、自身が主宰するネットメディアで「クーデター」の可能性にしばしば言及するようになったという。「民衆革命は必ず反応を呼ぶ。4・19学生革命は5・16軍事革命の原因となった」といった具合だ。韓国には過去に2度のクーデターの歴史がある。最初は大統領朴正煕が少将時代の1961年に主導した5・16軍事クーデター。二度目は朴が1979年に暗殺され、政治空白が生じたとき、北の脅威や安全保障を理由に陸士11期卒の全斗煥国軍保安司令官らが決起して戒厳令を敷き、民主化運動の「ソウルの春」をつぶし、1980年に軍政を敷いた例だ。3度目の正直が起きるとすれば、後者の例に似ているが、こればかりはまだ眉唾物だ。こうして韓国は国論の分裂と、激動期に指導者がいないために政治の空白が生じ、対外政策で身動きがとれない状況に立ち至っている。朴槿恵を退陣に至らしめた「広場民主主義」の危うさを感じざるを得ない。
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