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2017-03-27 11:03
PKO派遣ゼロでいいのか
鍋嶋 敬三
評論家
南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊の施設部隊(350人)について、政府が3月10日の国家安全保障会議(NSC)で、司令部要員を残して5月末に撤収させる方針を決めた。日本がPKO 部隊を1992年にカンボジアに派遣して以来25年、難民支援事業も含めるとモザンビーク、ゴラン高原、東チモールなど13件延べ1万2000人の自衛隊員が汗を流してきた。政府は「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場からPKOへの協力を重視」している(外交青書)。安倍晋三首相は「南スーダンの国造りに大きな貢献を果たした。首都ジュバでの施設整備は一定の区切りをつけることができると判断した」と撤収の理由を説明した。日本のPKO派遣部隊はゼロになるが、それで日本は国連の安全保障理事会の理事国(非常任)としての責任を果たせるのだろうか?条件が許せば積極的に新たな参加を検討すべきである。
現在の施設部隊は新安保法制の中で2016年12月、初めて「駆け付け警護」と「宿舎の共同防護」の新しい任務を付与されて送り出された。その時期に起きたのが、現地部隊から日々送られてくる活動報告(日報)の隠蔽問題である。防衛省が新任務の実動訓練を公開した同年10月、菅義偉官房長官はジュバの情勢について「比較的安定している」と強調した。ところが後日分かったことだが、7月11日の施設部隊日報や上部機関である陸自中央即応集団司令部の翌日のレポートには「激しい銃撃戦」「激しい戦闘」の記載があった。官房長官の発言は現地の緊迫した情勢とはかけ離れたものだ。既に8月には、南スーダンで政府軍と反政府武装勢力の戦闘が7月に再開されて「数百人死亡」の情報が流れていた。7月の日報について10月に情報公開請求がされたが、防衛省は12月に「日報を破棄した」として不開示の決定をした。防衛省・自衛隊が情報を官邸に隠していたなら文民統制上も由々しき問題である。
稲田朋美防衛相が再調査を指示したところ10日後に統合幕僚監部にデータが存在していたことが分かった。しかし、防衛相に日報の「発見」が報告されたのは年が明けて1ヶ月後の2017年1月末、防衛省が日報の保管を公表したのはさらに遅れて2月になってからだった。7月の「戦闘」報告以来、公表までになんと半年以上も費やしたのは防衛省、自衛隊内部に隠蔽体質が染み渡っていたからではないか。稲田防衛相は3月16日の衆院安全保障委員会で「防衛省、自衛隊に隠蔽体質があれば改善したい。事実なら国民の信頼を大きく損ないかねない」と述べたが、国と国民の安全をあずかる防衛トップの指導力こそが今問われているのだ。防衛相は特別防衛監察の実施を直轄の防衛監察本部に命じたが、徹底的な監察とその結果をすべて公表すべきである。
北朝鮮や中国、ロシアなどの脅威によって日本を取り巻く安全保障環境が悪化している現在、自衛隊に対する国民の理解と支持がなければ、国の安全は確保されない。内閣府の防衛に関する世論調査(2015年1月)でPKO活動への支持は80%と高く性別、年代別にも大きな差異はない。他方、2016年11月の外交に関する世論調査では、PKOへの参加支持は前回調査より6.5%減り73.5%に、参加に消極的ないし反対は7.4%増えて21.9%になった。「駆け付け警護」を含む安全保障法制の国会審議や南スーダンの治安情勢の悪化を反映したと考えられる。世界的に見てもPKOミッションに参加する部隊が無傷であり続ける保証はない。大量の難民が発生するような武力衝突が日常的に起きる世界では、平和維持活動においても犠牲が生じることは覚悟しておかなければならない。これは派遣各国が直面する冷厳な現実である。だからこそ新たな任務を付与された日本のPKO 活動に国民の理解と支持を確固とするする必要があるのだ。そのためにも情報開示を徹底させる大きな責任が安倍内閣にはある。
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