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2017-04-12 06:32
中国、朝鮮半島沈静化に動く
杉浦 正章
政治評論家
読売が4月12日付社説で、北朝鮮の核・ミサイルによる挑発行為について「中国の実質的関与を促したい」と間の抜けた主張をしている。なぜ間が抜けているかと言えば、中国が、北朝鮮の非核化に向けて本格的に動き始めたのを見逃しているからである。中国外務省の朝鮮半島問題特別代表武大偉が10日訪韓して外務省韓半島平和交渉本部長金ホン均と会談、「中国はいかなる場合でも北朝鮮の核保有国としての地位を認定、黙認しない」と、金正恩をこれまでになく強く批判したのだ。中国は、ICBMの打ち上げや核実験をやれば見捨てる、と言っているのだ。これは明らかにトランプが習近平との会談で「中国が役割を果たさないなら我々が単独でやる」と“説得とどう喝”で「行動」を促したことを反映している。空母カールビンソンと横須賀停泊中のロナルド・レーガンに取り囲まれて、中国までが離反し、北は外交・安保両面で完全に追い込まれ、孤立化したのだ。こうした米中の方針は、韓国の大統領選の帰趨に大きな影響を及ぼしつつあり、トップを走っていた親北の「共に民主党」の文在寅が失速しつつあり、戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)容認など保守票を意識した中道・国民の党の安哲秀が世論調査で劇的な逆転となり、有利となりつつある。
習近平はよほどこたえたとみえる。米中首脳会談から3日後に武大偉を韓国に派遣している。それに首相李克強も10日、北京で元衆院議長河野洋平らと会談し、「北朝鮮情勢は緩和すべきだ。中国もやるべきことがあるし、中日でも共にできることがある」と、日本との連携すら示唆している。明らかに中国は対北政策で金正恩への圧力をかけ始めるという北朝鮮政策の重大な方向転換をした。一面トップ並みの動きだが、日本のマスコミの多くがこの動きを見逃している。韓国中央日報によると、武大偉は「北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射のような『戦略的挑発』を敢行する場合、国連安全保障理事会の決議に基づき強力な追加の措置があるだろう」と発言した。両者は(1)北が追加で挑発すれば、よりいっそう強力な安保理決議はもちろん、制裁と圧力を持続的に強化するべきである、(2)北の非核化のために韓中協力と5カ国(韓・米・日・中・露)の連携が重要だ、(3)韓中は核問題の緊急性・厳重性に対する評価を共有し、北の挑発を懸念して、反対するという立場で一致した。
こうした中国の動きは、ひしひしと朝鮮半島に迫る「4月危機」に対して、中国がとりあえずは緊張緩和に動かざるを得ない状況に立ち至ったことを意味する。習近平はトランプとの会談で韓国へのTHAAD配備に懸念を表明しているが、その基本的な立場は維持しつつも、今後金正恩が核実験やICBM実験、さらにはICBMへの核搭載に踏み切れば、事態は抜き差しならぬ戦争に突入しかねないという危機感を抱いたのであろう。もともと習近平は金正恩を毛嫌いしているといわれており、就任以来朴槿恵とは会談しても金とは会談していない。しかしこのまま放置すれば第2次朝鮮戦争、ひいては第3次世界大戦まで誘発しかねない事態へと発展しかねない。朝鮮戦争ともなれば最終的には米国主導で韓国による半島統一に向かう事は必定だ。これはなんとしても防がなければならない、という考えに立ち至ったのであろう。
それで武大偉を韓国に派遣したのであろうが、こうした動きは北に対して極めて厳しい威圧になる。問題は、中国がこうした動きを背景に北への説得に動くかどうかだ。金正恩を説得するには包囲網だけでは足りない。武大偉は韓・米・日・中・露5か国の連携の必要を提起しているが、これがかつて堂々巡りを繰り返した6者協議と同じことになる可能性は否定出来ない。やはり中国自らが石油の禁輸などドラスティックな制裁をかけることで北を脅し、金正恩を外交的に屈服させるしか方法はあるまい。習近平がそこまで踏み込むかどうかが当面の焦点となる。
一方で韓国の大統領選はこうした極東情勢を強く反映したものとなりつつある。5月9日の投開票に向けて事実上文在寅と安哲秀の一騎打ちの様相を呈してきた。先月には8.4の支持率しかなかった安哲秀がここ1週間で急速に支持率を上乗せして、文在寅を逆転した。8~9日に聯合ニュースが実施した世論調査の結果によると、候補者5人への調査で安の支持率は36.8%で、文の32.7%より4.1ポイント高かった。また候補を2人に絞った場合も、安は49.4%で、文の36.2%を13.2ポイントの差でリードした。テレビ朝鮮の調査も安候補が34.4%、文候補が32.2%だった。2人に絞っても、安が51.4%で、文の38.3%より13.1ポイント高かった。この結果がなぜ導かれたかと言えば、朴槿恵への反発から「当選したらまず北へ行く」と述べる親北朝鮮の文在寅へと流れた支持が、北による半島危機によって限界を示し、逆に中道とはいえ米国との連携に大きく舵を切った安哲秀に支持が向かったといえよう。とりわけ安哲秀がこれまで反対してきたTHAAD配備を支持する方向に転換したことも、行き場がなかった保守層の支持を獲得し始めたものとみられる。こうした状況は1か月後の投票に向けて加速するような気がする。安哲秀が勢いを付けたまま投票に突入する公算が大きい。しかし、最近の選挙はトランプ当選を誰も予想しなかったように「魔物」が潜んでいる可能性もあり、断定は出来まい。
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