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2017-04-19 06:40
日米会談、謎の35分は霧の中
杉浦 正章
政治評論家
安倍・ペンス会談を一言で形容すれば、中国の北朝鮮への働きかけを当分見守るというところにあるのだろう。従って米国が当面軍事行動に出ることはまずあり得ない。会談からは、軍事行動が迫っているような雰囲気は感じ取れなかった。しかし、禁止用語を避ければ「クレージーマンに刃物」を持たせたような金正恩が、突如核実験に踏み切れば、事態は軍事衝突へと一変する。米国務省高官は「金正恩政権の転覆は求めない」とまで言い切っているが、これも筆者が前回指摘したとおり、中国との「密約」の急所だ。これがなければ中国は金正恩を説得する手段がない。したがって米空母打撃群は、北と中国をにらんだ脅迫材料として朝鮮半島周辺に存在し続けるだろう。
会談での注目点は、首相・安倍晋三が「米国が全ての選択肢はテーブルの上にあるという考え方で対処しようとしていることを評価する」と軍事行動への支持を正式に表明したことだろう。ペンスにしてみれば安倍発言は願ってもない支持表明であり、日米の一致した軍事行動も辞さない構えは、北への抑制効果を一段と増幅することになる。ペンスは「戦略的忍耐の政策は終わった」と、優柔不断のオバマの政策からの決別を明言した。また「国際社会が団結して北に圧力をかければ、朝鮮半島の非核化達成の好機が生まれる」と日米韓の中国との結束の必要を強調した。両者の口ぶりからは、北への圧力をひたすら強化しなければならない現状が分かる。この方向を公表しなければ、ペンスの同盟国歴訪の意味がないからだ。
しかし、ソウルが甚大な被害を受けかねない韓国が、ペンスに軍事行動への慎重論を説いたといわれるように、北の攻撃にさらされる恐れがある日本も、むやみやたらに主戦論に傾いているわけではあるまい。北のミサイルにはまだ原爆は搭載されていないが、サリンなど化学兵器をイタチの最後っ屁のように一発でも撃ち込まれてはたまらない。従って会談では公表された部分以外のきわどいやりとりがあった可能性がある。会談は一時間の昼食が終了した後、人数を絞って35分間行われている。そこでの話し合いは、機密事項であり、推測するしかないが、あえて推測すれば、まず中国がどこまで本気で北朝鮮を説得するかが話し合われたのではないか。米中両国はこのところ頻繁な接触を繰り返しており、ペンスは米国の感触を伝えたはずだ。
また、公表されていないが、米国が攻撃に踏み切る場合の日本との事前協議についても話し合われた可能性がある。安倍は4月15日の参議院予算委で、朝鮮半島有事の際について「米国海兵隊は日本から出て行くが、事前協議の対象になるため、日本が了解しなければ、韓国を救援するために出動できない」と述べている。既に日本政府は米政府に対し、北朝鮮への軍事行動に踏み切る場合には事前協議を行うよう求めているといわれる。こうした方向を安倍がペンスにも再確認することはあり得るだろう。政府高官は「北が核実験を行った場合の対応については、今日のやりとりはなかった」と述べているが、既にトランプは「核実験=軍事行動」を明確にしており、ここの“急所”が話し合われなかっただろうか。米側から何らかの見通しの説明があってもおかしくはあるまい。
こうした中で、北朝鮮の“口撃”は佳境に達している。日朝国交正常化担当大使宋日昊は「我々にとっては、アメリカだけでなく、日本軍国主義も主たる敵だ。戦争になったら一番の被害を被るのは日本だ」と毒づいている。既に北は3月に、金正恩が在日米軍基地を攻撃する任務を負った部隊による4発のミサイル発射実験を指揮しており、露骨な嫌がらせを展開している。日米の離反を目指す戦略が見え見えだが、こうした言動が繰り返されるたびに、眠っていた日本国民の国防意識を目覚めさせていることが分かっていない。日本の極端な右傾化が、朝鮮半島にとっては、米国より怖いことは歴史が証明している。これを知らない金正恩の挑発と火遊びはいいかげんにしないと、火の粉は自分に降りかかることを肝に銘ずるべきだ。いずれにしても、すべては中国の対北外交の成り行き待ちだが、金体制を崩壊させないことを前提条件としていることは、金正恩をいよいよつけあがらせるだけとも言える。中国が原油ストップなどよほどの強硬策をとらない限り、水面下での中朝交渉はラクダを針の糸に通すくらい困難であろう。
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