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2017-04-30 06:55
米と北が“寸止め”の対決
杉浦 正章
政治評論家
北朝鮮による弾道ミサイル発射実験が4月16日に続いて29日も“失敗”した。“失敗”とチョンチョン括弧で表現したのは、技術的な原因による失敗の可能性が高いものの、意図的な失敗や米国のサイバー攻撃による失敗の可能生も残されるからだ。サイバー攻撃は先に書いたように輸出の途中でチップに加工すれば失敗させることは可能だ。また民放コメンテーターが「北にネットがないから侵入は不可能」という愚論を述べていたが、いくら北でも外国に侵入出来るようなネットを、軍事利用しているわけがない。いずれにしても金正恩が米国による圧力の「隙間」を見いだしてミサイルを打ち上げたことは確かであり、その狙いは空手でいう“寸止め”であろう。致命傷になる打撃を控えて、寸前で止めるのだ。北は、致命傷が核実験やICBM実験に踏み切ることだと分かっているのだ。一方米国は、空母カールビンソンを朝鮮半島海域に到達させ、これまた“寸止め”の状態においた。事態は両者がこの“寸止め”状態のまま当分推移する。しかし戦争がこの極限状態を経て突入することは、歴史が証明している。1937年7月7日夜に発生した盧溝橋事件がその例だ。北京郊外の盧溝橋近くで演習していた日本軍に何者かが発砲したことが発端で、翌朝から日本軍が北京周辺の中国軍への攻撃を開始し、日中は全面戦争に突入した。
こうした状況を背景にして、日本政府がこのところ急速に国民への危機対応を求めるようになったのは当然だ。何でも反日に結びつける韓国メディアが「東京メトロ運転見合わせは過剰対応」(聯合ニュース)などと書いているが余計なお世話だ。北の攻撃に対して地下鉄への待避は重要な手段だ。今はもう誰も知らないだろうが、国会周辺では千代田線をものすごく深く掘って通しているが、これは建設当時から「核シェルター」といわれている。しょっちゅう砲弾を撃ち込まれている韓国と異なり、日本は避難意識が欠如しているから、少しでも国民を慣れさすためには、北のミサイル実験のたびに地下鉄を10分くらいストップさせてもよい。
現在の状況を俯瞰すれば、日米中露4か国は朝鮮半島非核化では一致している。しかしその対応は別れている。北が核実験かミサイル実験に踏み切れば、米軍は攻撃を開始する可能生が極めて高い。それを百も承知なのであろう。金正恩は、全面対決を避けるかのように、湿った線香花火のようなミサイルの打ち上げに興じているのだ。こうした中で朝鮮半島をめぐる大国の対応に、亀裂が見え始めてきた。中国とロシアが温度差があるが「対話」を主張。日米は「圧力による解決」に傾斜し始めている。まず首相・安倍晋三とプーチンとの会談で北朝鮮への対応をめぐって食い違いが生じた。プーチンは共同記者会見で「朝鮮半島の状況が悪化していることについて安倍総理大臣は懸念を表明した。レトリックに陥ることなく落ち着いて対話を続けていくべきで、6か国協議を再開することが必要だ」と述べた。2008年の協議を最後に中断している6か国協議を再開させることの重要性を強調したのだ。これに対して安倍は英国での会見で「対話のための対話は解決につながらない。むしろ国際社会が北朝鮮に対する圧力を一致結束して高める必要がある」と反論した。たしかに6か国協議が何を残したかといえば、結局北による核開発の進展でしかなかった。北は経済援助に加えて核開発の時間的余裕をもらい、結果として核兵器製造は完成間近の段階に至ったのだ。
中国も国連安保理閣僚級会合で外相王毅が「北朝鮮と米国は対話の再開を真剣に考えるべき時だ」と主張した。トランプが中国に対して北への制裁を強く求めていることについても、王毅は「中国は問題の中心ではない。問題解決のカギは中国にはない」とまで言い切った。それでもトランプは27日、習近平が北朝鮮に経済・外交的な圧力をかけているといわれることについて、「習主席は一生懸命努力していると信じている。彼は混乱や破滅を見たくないはずだ」と述べ、期待を表明している。
しかし、北の首根っこを握る石油の供給制限をどこまでやっているか、または今後やるかはまだ疑問がある。北はテレビで平壌がガソリン不足になってガソリンスタンドが閉鎖されている状況を報道しているが、中国と北の結託の上での芝居かとも思いたくなる。まさに事態はらちがあかなくなることを予感させる手探りの状況となりつつある。トランプは「最終的に北朝鮮との大規模な紛争になる可能性がある」とも発言しているが、米国の閣僚発言を見る限りは軍事行動が切迫しているようには見えない。中国の「環球時報」も、社説で「核実験やICBM実験をしない限り希望が持てる」と論じている。しかし別の社説では「北朝鮮政府が断固として核プログラムの開発を続け、その結果として米国が北朝鮮の核施設を軍事攻撃した場合、中国はこの動きに外交チャンネルでは反対するが、軍事行動には関与しない。米国と韓国の軍隊が北朝鮮の政権を壊滅させる直接的な目的で非武装地帯を地上から侵略するならば、中国は警鐘を鳴らし、直ちに軍隊を増強するだろう。中国は、外国の軍隊が北朝鮮の政権を転覆させるのを座視することは決してない」と主張している。核施設攻撃は容認するが、米韓の侵攻は座視しないと明言している。金正恩が大誤算をして、核かICBMの実験をしない限り、状況は緊張のまま当分推移してゆくことになろう。
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