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2017-05-16 06:21
金正恩は抑制的な暴発だろう
杉浦 正章
政治評論家
偏執病・パラノイアとは不安や恐怖の影響を強く受けて、他人が常に自分を批判しているという妄想を抱く傾向を指すが、驚くことにこれにトランプと金正恩がかかっていると言う見方が出ている。事実だとすれば、極東情勢への影響が懸念される。先に偏執病と指摘されたのはトランプ。米国の35人の精神科医などが連名で2月13日付ニューヨーク・タイムズ紙に送った投書で、「トランプ氏の言動が示す重大な精神不安定性から、私たちは彼が大統領職を安全に務めるのは不可能だと信じる」と警告したのだ。この35人は「黙っていることはあまりに危険すぎる」と考え、「自己愛性パーソナリティー障害・偏執病」と指摘した。確かに3月4日には「オバマ前大統領が選挙戦最中にトランプタワーを盗聴した」などと爆弾発言をしたが、その証拠は示されておらず、妄想とされている。一方で、米国連大使ヘイリーは5月14日放映のABCニュースで、金正恩について「パラノイア(偏執病)だ。彼は自身を取り巻く全てのことに、信じられないほど懸念している」と語った。少なくとも国連大使が、米政府の分析結果を反映しない発言をすることはなく、米政府の性格分析は金正恩=偏執病なのであろう。
過去にうつ病など精神疾患にかかった大統領は複数存在しており、トランプが直ちに不適格者だとは断定できない。また日本でも偏執病で立派な経営者などは多いと言われ、一概に言えることではない。しかし、金正恩に関して言えば、行動は極めて異常だ。筆者は一時、金正恩の行動を暴力団組員など社会の敵の行動パターンと類似していると分析していた。人格欠如の人間は予測不能の言動をとるからだ。国連大使の発言で、よく分かった。偏執病であったのだ。この偏執病とされる人間が核兵器のボタンを押す力を持っているか、持ちつつあるとすれば、極東情勢は極めて危ういことになる。しかし、トランプの場合は国務長官レックス・ティラーソン、国防長官ジェームズ・マティス、安保担当補佐官マクマスターらの常識派がそばに付いており、自ずと行動は抑制型となる。もっとも、北のミサイル打ち上げに関して「軍事行動をとる」かと問われて、トランプは「すぐに分かるだろう」と不気味な予言をしている。また短絡して、対北交渉でICBMには反対しても、核については容認するという誤判断をされては、日本はたまらない。
一方、金正恩が今後どんな行動をするかだが、日本の北朝鮮専門家らは今回の液体燃料の「火星12型」ミサイルの発射から推察して、「核実験をやる」「ICBM実験をやる」と、性急かつ短絡的な見解を民放テレビで表明して、国民の不安感を煽っている。しかし、重大な兆候を見逃している。評論家らはトランプと同様に金が抑制を利かせているように見えることが分かっていない。おそらく金正恩をうまく手なずけて、レッドラインギリギリの対応に導いている側近らがいるように見える。その状況掌握力は相当なものがあるとみなければなるまい。最大の兆候は火星12の発射を、24時間にわたって米人工衛星に見せたことだ。これはアメリカがICBMの実験と誤判断して、撃墜行動に出て戦争に発展することを嫌ったことを意味する。アメリカがどうして看過したかと言えばICBMの実験ではないことが分かっていたからだ。さすがの金も米国の先制攻撃だけは恐れていることを物語る。
米国はレッドラインをあえて明示していないが、明らかに核実験やICBMの実験をやれば見過ごすことはないだろう。オスロでの米朝接触の内容は分かっていないが、米側はおそらくその辺を伝えた可能性があると筆者は見る。だから安心して中距離ミサイルの実験を断行できたのであろう。こうした暴挙の隙をうかがい続ける北の存在は、図らずも米中直接対決の図式を遠ざけており、これは米中双方にとってプラスに作用する。とりわけ中国は膨大なる対米黒字を北朝鮮問題で一時棚上げにしてもらっている形であり、いわば「金様々」の側面もあるのだ。しかし、今回ほど習近平を怒らしたことはあるまい。こともあろうに得意満面で初の「一帯一路」国際会議を執り行おうとした4時間前の実験である。おまけに北朝鮮代表も、米国が「北に誤ったメッセージを送る」として招致しないよう忠告したにもかかわらず、招かれている。習近平にとっては、世界に向けて演説する晴れ舞台の日に、いわば顔に泥を塗られたことになる。この結果、怒り心頭に発したのか、習近平は45分の演説で10回も読み間違えている。
中国の次にうろたえたのは、韓国の文在寅だろう。就任演説で北に秋波を送ったにもかかわらず、その4日後に金が「俺はこんなに偉いんだぞ」とばかりに威張ってみせた。まさに太った後ろ足で砂をかけられたことになる。甘くないことを見せつけられて、どうしよう、どっちに付こうか、と迷っている最中だろう。日本にとっては北のミサイル技術の進歩への対処を迫られる。ミサイル防衛網の強化はもちろん必要だが、それだけでは防げない。日本独自の敵基地攻撃能力を持って、先制攻撃も辞さぬ構えで抑止を利かせなければ、北のパラノイアは何をするか分からない。日本自身が生存の瀬戸際にあることを政治家や国民は理解すべきだ。問題は北が核を手放す可能生はゼロに等しいことだ。トランプが核保有を見逃す方向で手打ちなどすれば、日米同盟に亀裂が入るくらいの姿勢は必要だ。7日の国連安保理緊急会合などでも、核・ミサイルでの一対の対応の必要を強く訴えるべきだ。
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