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2017-07-03 14:45
北朝鮮核問題:政府は国民に真実を伝えよ
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
6月23日、全国の民放43局と新聞70紙で「弾道ミサイル落下時の行動」の政府広報CMが始まった。テレビCMは30秒で、全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて緊急情報が流れることを説明。屋外にいる人は頑丈な建物や地下に避難し、屋内にいる人はできるだけ窓から離れるよう促す内容だが、率直に言って国民をばかにしているとしか思えないし、それを批判しないメディアも壊れている。イスラエルのように各戸にシェルターの設置が義務付けられているならともかく、一般の日本家屋で窓から離れるだけで、ミサイル攻撃から命を守れるわけがない。国民全員に脅威の存在と対処方法を知らせることは重要だが、その前に北朝鮮からの攻撃を防ぐために政府がとっている対策と効果を国民に示し、賛否を問うべきではないか。
北朝鮮核問題について、これまでに発表されている政府の基本方針は以下のようだ。(1)北朝鮮の核保有と関連の開発実験は絶対に容認しない、(2)国連安保理決議に基づく制裁に加え、米国と協調してより厳しい経済制裁を実施する、(3)トランプ米政権の「全ての選択肢がテーブルの上にある」対処方針に賛同する、(4)韓国の文在寅新大統領が打ち出した北との対話には反対する。防衛面ではイージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)による迎撃システムが構築されているが、3月のミサイル4発同時着弾成功、5月の高度2000㌔超の弾道ミサイル発射成功などで、既存の迎撃システムでは北の脅威に太刀打ちできないことが明らかとなった。この弱点克服を目指し、現在日米共同で新型迎撃ミサイルを開発中だが、まだ実用段階には達していない。経済制裁も効果が出ているとは言い難い。韓国政府の推計によれば、北朝鮮経済は、2011年から14年まで4年連続プラス成長を遂げている。15年は1・1%のマイナス成長だったが、韓国国家情報局が16年に出した資料によると、北朝鮮国民の1%に当たる24万人が新興富裕層で、1000万㌦以上の資産家は100人を超えているとのことだ。
その背景の一つは、安保理決議に基づく経済制裁が軍事関連以外の取引を制裁対象から除外していること。もう一つは、北朝鮮の貿易取引の90%の相手方である中国が制裁に消極的なことだ。6月20日、トランプ米大統領はツイッターで「中国は北朝鮮に核開発を放棄させるため働き掛けを行っているが、これまでのところ失敗に終わっている」と失望を伝えた。これに対して、中国外務省報道官は「北朝鮮の核問題を解決する鍵は中国にはない」と切り返している。現実問題として、北朝鮮が自国の独立と安全を守るための唯一の切り札である核を放棄することは考えられない。一方で、韓国と日本で100万人を超えると推定される犠牲者を考えると、米国による対北朝鮮軍事攻撃も選択肢から外さざるを得ないだろう。
現時点で最も可能性の高い着地点は、「北朝鮮による核とミサイルの開発凍結を前提に、米国は北朝鮮の核保有を認め、金正恩体制の存続と安全を保証する」ことだろう。もし、そのような形で米朝合意が成立した場合、米朝間には互いの核保有を前提とした抑止力が働くが、核を持たない日本には北の核攻撃を抑止する力がない。日本は、米国の核の傘に入っているとされるが、日本が北から核攻撃を受けた際、米国が反撃すれば北は間違いなく米本土に向けて核ミサイルを発射するだろう。それを承知の上で、「アメリカ・ファースト」の米国は本当に日本のために反撃してくれるのだろうか。今、日本は防衛政策を根本から見直す時期に来ていると思う。
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