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2017-07-13 10:28
日欧の戦略的合意が世界をリードする
鍋嶋 敬三
評論家
日本と欧州連合(EU、28カ国加盟)の首脳協議(7月6日)で経済連携協定(EPA))と戦略的パートナーシップ協定(SPA)に大枠合意した。2019年のEPA発効を目指す。日本とEU合わせて世界の国内総生産(GDP)の28.4%、貿易(輸出入)の36.8%を占める世界最大級の自由な先進経済圏が誕生する。米トランプ政権が離脱を決めた環太平洋連携協定(TPP)と同程度の高い自由化率を確保、自由貿易体制を守る強い政治的意思を示した。保護主義に立ち向かう強いメッセージを世界に向けて発したものだ。日本にとっては、米国抜きのTPP11の発効に向けての交渉の大きな推進力になるとともに、今後の対米貿易経済交渉の有力なカードになる。
EPAは3月、5月に続く3回目の日EU首脳会議で合意が成立した。なぜできたのか。トランプ政権の保護主義、多国間より2国間交渉重視、英国のEU離脱という従来の国際秩序を崩す動きに危機感が高まったことが日EU双方の背中を押した。欧州にとっては日本の存在感は相対的に薄かったが、情勢は大きく変わったのである。EU側は「EUが取り決めた最も重要な2国間貿易協定」と最上級の表現で高く評価、ユンケル委員長はEPAが国際標準になるとの考えを示した。安倍晋三首相はEU首脳との共同記者会見で、「自由貿易の旗を高く掲げるという強い政治的意思を示すことができた」とし、「自由で公正なルールに基づく21世紀の経済秩序のモデルとなる」と語り、世界標準となるよう最終合意への決意を示した。「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が保護主義へ走り出す中、中国の習国家主席が実態とかけ離れた「自由貿易の旗振り役」のポーズをひけらかしている時だけに、日EUのEPAはどちらが本物の自由貿易推進者か、はっきり示した。
SPAは民主主義、法の支配、人権など基本的価値観を共有する日本とEUの協力の方向性を定める。日EU間の基本文書として法的拘束力を持つ協定である。海洋、サイバー、テロなど約50分野の協力を促進する。EUは「日EU間の政治的合意を新たな段階に引き上げた」と評価。モゲリーニ上級代表は「さまざまな挑戦に効果的に取り組むことができる」とその意義を強調、「日EU協力の法的枠組みとなる」と述べた。日EU間では北朝鮮の核・ミサイル開発が「国際社会共通の脅威で最優先課題」とする首脳声明を発表した。海洋安全保障でも協力を進める基盤ができた。
安全保障でもう一つ重要な動きがあった。安倍首相と北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長との会談で、NATOからの要請に応えて日本政府代表部の開設を「真剣に検討する」と安倍首相が約束した。アジアと欧州の安全保障環境が密接に関連しているため、「同盟のネットワーク強化が重要」との認識で一致した。NATOの主要任務はロシアの脅威から欧州の諸国を守ることだ。日本がNATOと正式な関係を築けば、対ロ情報が入手しやすくなる。米国に偏らないバランスの取れた情勢判断が可能になり、防衛協力も容易になる。対米国、アジアだけでなく欧州とも提携関係を強化することによって、経済、政治、安全保障面で日本外交の幅を広げ、基盤を強化することになる意味は大きい。
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