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2017-08-03 16:18
ISの拠点化が進む比マラウィ市の悲劇
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
フィリピンのマラウィ市は、ミンダナオ島西部ラナオ・デル・スル州の首都。ラナオ湖に面し、起伏のある丘と谷が美しい高原の都市だ。20万人の住民の約9割はイスラム教徒で、市の公式名称はマラウィ・イスラム市となっている。2017年5月23日、この町を突然の不幸が襲った。市の中心部で、IS系アブサヤフのリーダーであるイスニロン・ハピロンが、友好組織マウテグループの幹部といるところを、軍の治安部隊が急襲したことが発端となり、市の中心部で両者間の激しい戦闘が始まった。
ハピロンの要請で応援に駆けつけたマウテグループのメンバーが戦闘に加わると、形勢は逆転し、約500人の過激派組織側は圧倒的攻勢に転じて、警察署から武器を奪い、市庁、病院、教会、刑務所など市内の主要施設を制圧するとともに、市に通じる全ての道路を封鎖して、マラウィ市を完全支配下に置いた。20万人の市民の大半は市外へ避難したが、逃げ遅れた約2000人が「人間の盾」として拘束された。この事態を受けて、フィリピンのドゥテルテ大統領は、直ちにミンダナオ島全域に戒厳令を敷いた。当初2カ月の予定だったが、その後事態の深刻さを考慮し、年末まで期間を延長した。7月26日現在、依然として戦闘は続いており、これまでに一般市民、軍治安部隊、過激派組織を合わせて、少なくとも600人の死亡が確認されている。
この事件で注目すべき点は、過激派組織の戦闘員の多国籍化だ。フィリピン国軍の発表によれば、過激派組織側には地元出身者のほか、近隣のインドネシア、マレーシア、シンガポール、ミャンマー、さらにサウジアラビア、イエメン、パキスタン、チェチェン、モロッコなどからの戦闘員も加わっているようだ。インドネシアの紛争政策研究所(IPSC)は、7月21日のリポートの中で、ISは2016年中にシリアからミンダナオ島の過激派組織に数十万㌦を送金し、過激派はその資金を使って周辺諸国で戦闘員の徴募を行っている、と報告している。
これらの事実をつなぎ合わせると、イラクとシリアの“領土”喪失が目前に迫ったISが、ミンダナオ島を新たな拠点として構築しようとしている姿が見えてくる。IS系アブサヤフが拠点とするスールー諸島は、フィリピン、インドネシア、マレーシア三国の中間海域にあり、海賊が多発する無法地帯だ。インドネシアやマレーシアからの海上ルートでの戦闘員の流入は、事実上野放しにされている。気になるのは、この「隣人の不幸」への日本の関心の薄さだ。事件発生を受けて、近隣のマレーシア、インドネシア、シンガポールは直ちに国境警備強化への協力を申し出た。それに加えて、中国、ロシア、米国、オーストラリア、イスラエル、韓国、EU(欧州連合)、トルコの諸国が、資金、武器、技術もしくは人道援助の提供を申し出ている。一方で、今年1月のフィリピン訪問時にドゥテルテ大統領と個人的友情を深めたはずの安倍首相からは、何の言葉も聞こえてこない。メディアの関心も低い。この日本の底の浅さ、何とかならないものだろうか。
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