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2017-08-21 10:29
日米「2+2」、中国抑え込み明確に
鍋嶋 敬三
評論家
トランプ米政権下で初めて8月17日にワシントンで開かれた外務、防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2+2)が示したのは、(1)米国の拡大抑止の関与の再確認、(2)海洋安全保障への日米の継続的な関与、(3)宇宙、サイバー空間分野の協力である。一見、新しくは見えない。だが、アジアの軍事的脅威(北朝鮮や中国)に対する日米間の安全保障戦略のすり合わせが行われた結果、影響力拡大を続ける中国の押さえ込みにかかったことを明確にしたのがこの3項目である。トランプ政権は北朝鮮の核武装阻止に中国が本気でやる気がないことをようやく悟った。米通商法第301条の発動による調査開始(18日)で経済面から圧力をかけようとするが、制裁発動には中国が報復する構えで米中対決の機運が高まることは避けられず、対中外交上も日米の軍事戦略の態勢固めが不可欠であると気がついたのである。
2+2では、「核の傘」を含む拡大抑止が余すところなく強調された。北朝鮮の核・ミサイル開発の目覚ましい進展に米国内の識者間でしきりに日韓の「核武装」が論じられている。韓国内では有力紙が核武装を主張している。米国としては揺るぎない同盟関係を示すことによって、同盟国である日本、韓国の「核武装の可能性」の芽を摘み取る必要に迫られた。日韓の核武装論がさらに北朝鮮を刺激、中国の警戒感を一気に強め、中国外交の硬直化を招く恐れがあるからだ。ティラーソン米国務長官が2+2後の記者会見で「米国の拡大抑止が日本の安全保障、アジア太平洋地域の平和と安定を確保するため決定的な役割を果たしている」と強調したのは、米国の危機感を端的に表すものだ。閣僚協議の2日前に安倍晋三首相とトランプ大統領との電話会談が行われた。ここで、2+2の日米安保協力強化の基本路線が敷かれたのである。
これを受けた2+2の共同発表は「米国の核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じた日本の安全に対する同盟のコミットメント(関与)を再確認した」と、米国の戦力の総動員を確約して「だめ押し」したのであった。海洋安全保障では、中国が領海侵犯を繰り返す尖閣諸島(沖縄県)について、日米安全保障条約第5条の適用を再確認した。毎回の首脳や閣僚の会談、文書で再確認しなければならないほど、「米国は本当に守ってくれるのか?」と米国の日本防衛の「本気度」についての疑問がつきまとうからである。ここで注目すべきは南シナ海情勢にあった。共同発表文で「日米の継続的な関与が重要」と明記した。南シナ海への日本の関与を公式文で表明したのは初めてではないか。河野太郎外相は記者会見で南シナ海に日本が関与し続ける必要を確認する旨の発言をした。沿岸国に2019年までの3年間に5億ドルの供与を行い、米国と協力を深めることを表明したのはその表れである。
2+2は日米同盟の新しいフロントとして「宇宙、サイバー空間の協力」を柱の一つに掲げた。その翌日(18日)、米国防総省は太平洋軍など九つの統合軍の一つである戦略軍の指揮下にあったサイバー軍を統合軍に格上げした。同省の発表によれば、この措置は戦争の本質的変化を反映してサイバー空間が米国の国家安全保障の中心的位置を占めるようになったとの認識に基づく。サイバー戦能力によって中国、ロシア、北朝鮮は核兵器を使わなくても米国の軍事作戦能力を無力化することが可能な時代になったのである。日本がなすべきことは、日本を守る米国の拡大抑止力を一層高めるための着実な防衛力の整備だ。「イージス・アショア」の導入などミサイル防衛の強化、南西諸島の防衛体制の充実が喫緊の課題である。日本側は次期中期防衛力整備計画(2019年-2023年)を策定する2018年に合わせて防衛計画大綱の見直しを米国に伝えている。小野寺五典防衛相は日本が専守防衛の基本に立って日米同盟の中で「盾」の役割に徹することを表明した。脅威に対して浮き足立たず、地道で着実な防衛体制の整備こそが必要なのである。それが米国の拡大抑止の有効性を高めるゆえんである。
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