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2007-05-06 10:14
生態学的死の河:豆満江 中国東北開発に対する日本の関わり方
米本昌平
科学技術文明研究所長
中朝国境の白頭山(中国名=長白山)を水源に、東に流れ、日本海に注ぐ国際河川、豆満江(中国名=図們江)といえば、北朝鮮からの「脱北者」が密かに渡ってくる河として、最近、日本でも有名である。しかし、この河が生態学的に「死の河」である事実を知る日本人は少ない。
もう6年近く前のことになるが、2001年の夏の終わり、中国の吉林省延吉市で、「豆満江の水資源と生物多様性の保全」を主題に国際会議が開かれ、韓国、中国、ロシアのNGOが集まった。日本人は私を含め、2人だけであった。主催したのは、韓国ユネスコと延辺朝鮮族自治州政府で、北朝鮮にも招待状を送ったが参加しなかった。国際的な緊張状態にある地帯で、誰もが反対できない大義、たとえば環境保全問題を掲げて関係国が会議を開くのは、緊張緩和のための常套手段である。これを韓国のNGOは、精力的に行ってきている。
力説したいのは、豆満江の主要汚染源が、戦前の日本による投資によるものである点である。豆満江の汚染は最近でこそ、他地域と同様、都市生活廃水の比率が高くなっているが、これを除くと、大きな汚染源は二つある。一つは、北朝鮮最大の鉄鉱山、茂山製鉄所の廃液である。近年、電力不足で操業率が低下しており、やや改善していると言われる。1930年代から三菱の直轄鉱山として開発されてきたもので、関連する鉄道や清津港の整備も、この開発にあわせて行われてきた。もう一つの汚染源は、龍井市郊外のパルプ工場と支流の製紙工場の廃液である。白頭山一帯は良質のパルプ材が出たため、戦前に国策パルプ会社が投資したものである。戦後、中国国営工場となったが、廃液処理にはほとんど投資が行われないまま、使用され続けている。
もっと早くに、日本のアカデミズムや中立組織が、環境援助という観点から東北アジア地域を目配りよく研究していれば、豆満江の水環境問題をとりあげ、その生態学的回復で中心的役割を果たしえたかもしれないのである。このような環境援助を行っていれば、この地域の緊張緩和に直接間接に寄与するだけではなく、さまざまな北朝鮮情報も自動的に入ってきたはずである。
中国政府は、国内の経済格差を問題として認め、西部開発に続いて東北開発を重視するようになり、これに日本企業も参加するよう呼びかけている。この場合、個々の企業判断とは別に、中国東北部に日本がどう関与するのか、その姿勢と理念について議論し、あらかじめ明確にしておくことが望ましい。とかく日本人は、戦前の植民地政策に罪悪感と後ろめたさを感じすぎ、腰が引けすぎる傾向がある。中国東北部には辺境の地が多く、戦前の日本の投資による社会インフラがいまも利用されている面が少なくない。ポスト・コロニアルの色彩がなお残る地域に、日本が関与し続けるためには、日中の直接の当事者間での率直な対話を積み重ね、取り組むべき課題の正確な形を互いに共有することが絶対に必要である。それが、ウイン=ウインの関係を実現させる確実な道である。そのためにもまず、日本の研究者やNGO関係者の側が、積極的に当地に出向いていくべきなのである。
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