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2017-10-23 11:50
自民圧勝後の外交・安保戦略
鍋嶋 敬三
評論家
10月22日の衆院総選挙で自民党が圧勝、安倍晋三首相率いる自公連立政権の政治基盤は盤石になった。今後の安倍政権の外交・安全保障政策の課題は(1)抑止力を高める、(2)アジアを固める、(3)多国間協調体制を推進すること、である。北朝鮮の核・ミサイル脅威に対して首相は11月5日のトランプ米大統領の訪日前に、さらなる圧力の必要性で国民の信を問う決意を示した。選挙の結果は圧力路線に国民がGOサインを出したことを意味する。日本も韓国も米国の核戦力を含むあらゆる軍事能力を通じて提供される「拡大抑止」によって守られている。脅威が切迫するほど、同盟国側が米国の拡大抑止の信頼性を高める努力をするのは当然である。トランプ政権は日本への拡大抑止の約束を繰り返しているが、米国内では米国民を犠牲にしてまで同盟国を守る必要があるのかという「同盟国の切り離し(デカップリング)」の問題が再三指摘されているだけに、このことはゆるがせにはできない。
第二次安倍内閣の下で2年前、安全保障関連法が成立、施行されたことで米国の信頼が高まり、「同盟が一層強固になり、抑止力の強化につながった」(小野寺五典防衛相)。すでに2010年の防衛大綱、2015年の日米防衛協力の指針(ガイドライン)によって米国の拡大抑止の信頼性を高める基礎はできていた。しかし、その肉付けはこれからである。日米間の装備の共通化、共同演習の常態化、統合作戦能力の向上などを通じて日米安保体制の一体化を進める必要がある。北朝鮮の脅威に対して陸上型イージス・システム(イージス・アショア)の導入など、ミサイル防衛体制の強化を推進すべきだ。自衛隊の陸海空における防衛態勢の強化など、日本自らが米国の拡大抑止力の強化につながる施策をいわれのない批判にたじろがずに進めなければならない。
日本は日米同盟を基礎としたうえで外交的にも経済的にも「地盤」とするアジアからの支持を固めなければ国際的な影響力を発揮し得ない。中国、韓国とは歴史問題がトゲになり、常に波風が立つことを覚悟して付き合う必要がある。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国とは、国情の違いに柔軟に対応する姿勢が求められる。南シナ海問題では全会一致が原則のASEAN内に中国が手を突っ込み、人口島造成や軍事拠点化に対して「違法で国際法順守を」と訴える共同声明の発出を妨げてきた。安倍首相は11月6日のトランプ大統領との首脳会談を経て同月中旬、ベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)、フィリピンでのASEAN首脳会議および東アジア首脳会議(EAS)に出席する。インドやオーストラリアも含めたアジア・太平洋諸国に対する積極外交で北朝鮮の核・ミサイル危機、東シナ海、南シナ海での中国による主権侵害に対する日本の主張に深い理解と強い支持を取り付けるべきである。
ワシントンでの日米経済対話(10月16日)でペンス副大統領が初めて2国間の自由貿易協定(FTA)に言及、対日貿易赤字の削減を要求するトランプ政権の本音が出た。「米国第一主義」の同政権は2国間のFTAを重視、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓FTAの再交渉に乗り出したが、これは同盟国や友好国との安定的な関係を損ない、米国の影響力低下を誘うだけである。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)脱退を表明した米国抜きの11カ国で発効させるため、11月の大筋合意を目指している。TPP原メンバー国であるニュージーランドの政権交代で日本の戦略にも陰りが生じそうだが、高い水準の自由化が将来的にも各国の利益になることを積極的に訴えて行かなければならない。TPP合意に失敗すれば、将来の米国の復帰の契機が失われ、米国に代わる覇権を目指す中国を利するだけになるだろう。
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